第2話

文字数 635文字

ここは牢獄なのだろうか?

山小屋風の一軒家。
僕はここ数年、ここに居る。

いや、出入りは自由である。
飯を食わねばならない。
その為に、山で山菜やきのこを採ったり、川で魚を掴んだり。

それらを村人たちの米や野菜・肉と交換する事も出来たし、単純に金を出して買ってくれる人も居た。

しかし、何より人間が怖い僕は、必要最低限の用を足すと、一日のほとんどをこの小屋で、独り過ごしている。

文筆を志していた。
あるひとに、勧められて。

インターネット空間。
その無限に閉じた世界で、僕は山歩きの顛末を面白おかしく書いて、ひっそりと発信していた。

僕の生知識が役に立ったり、誇張した七転八倒を面白がった人が、時に訪ねて来てはおひねりをくれた。

彼女もそれを読んでいて、ずっとあなたには文才があると思ってたの。小説書いてみたら?

と言った。
彼女だけは好きだった僕は、その気になり、書き始めた。

書けなかった。
書いては消し、書いては消し。
 
生業としての文筆。
そんな、不似合いな事に囚われ、そして一文字たりとも書けない日々が、もう数年続いている。

あまりの不安に取り乱し、酒を飲んで紛らわせ、血を吐いた。

今では時々訪ねて来るけど、もともとインターネット上で知りあった彼女に、長文のメールを送るようになった。

僕がなんとか平静を装ってる時は冷たい彼女は、取り乱した長文メールを読むと必ずここに来て、僕を抱きしめた。

かわいい

と言って。

今では彼女が誰より怖い。
ここは彼女が作った牢獄だった。

僕は、彼女なしでは生きて行けなかった。


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み