第10話

文字数 582文字

書くよ。
ここに、君だけに、書いてみる。

おんぼろ。
その言葉は、どう表記するのが適当か?

おん襤褸、御襤褸、御ボロ、onぼろ。

ともあれ、その派手な迷彩柄の車はおんぼろだった。
もう、400000kmに届く走行距離を誇るその車には、一組の夫婦が乗っていた。

今日は広島、明日は福岡。
ふたりで行った事のない、西へ、西へ。
若い頃は、少しは魅力的だったかもしれない。
しかし、ふたりともに、萎れていた。
萎びきっていた。
年の頃が、まるでわからなかった。

僕にはどこか、彼らが死に場所を探してる様に思えて、少しその旅に付き合う事にした。
偏屈そうな旦那は露骨に嫌な顔をしたが、その妻は、「いいじゃない、旅は道連れ、道連れ」と、皺くちゃにわらった。
不覚にも、かわいいな、と思ってしまった。
「地獄へ道連れ、か。まあ、良いか」偏屈そうに見えた旦那も、ぎこちなく笑う。
歯がガタガタだった。

ああ、奥さんがぜんぶ決めるんだ。
その時は、そう思った。


ほら、下手くそだし、不穏な予感しかしないじゃないか。
暗いんだよ。
楽しい話が、書けない。
きっと君だって、嫌な気持ちにしかならないよ。
こんな風にだったら書けるんだ。
書いてるうちに、美しい寓話のひとつも書けるかもしれない。
まぐれでも。
だけれど、その為に、千も万も死にたくなるだけの暗い駄作を書かなきゃならない。
やっぱりわからないよ。
書くべきなのか、

書いて良いのか。


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