第3話

文字数 701文字

「あなた、私が見えてるの?」



『彼女』はおもむろにそんなことを訊いてきた。



しかしその訊き方だと『普通なら彼女の姿は見えない』ってことになる…

とすると彼女は僕が生み出した幻なんかじゃないってことだが? それならば彼女は一体何者なのか!?



「や、やぁフロイライン… 今日は良い天気だね…?」



言った瞬間に間抜けな返答をしてしまったことに気付いた…



彼女は表情を曇らせ…
一言『そう…』とだけ言うと、(きびす)を返して僕の前から立ち去ろうとした…



「ちょっ…ちょっと待ってほしいんだ…フロイライン!」



僕は必死だった…
どうしても彼女が何者なのか知りたかった…



「僕はハンス… ハンス・ギュルトナーって言うんだ… 君は?」


「悪いけど、あなたがどこの誰だとか興味ないわ… 私もあなたに名乗る名前なんてないし…」



「わかった… じゃあもう訊かないよ… 訊かないからもう少しだけ僕とお喋りしてほしい… いいかい…?」



「あなたも他の人たちといっしょでもうすぐ死ぬんだから… そんな人となんてかかわり合いたくもないわ!」



「僕は死なないよ! そう、故郷の恋人にもう一度会うまではね…」



なぜそんなことを言ったのか、僕自身にもわからなかった…



おそらく僕はここで死ぬ…

故郷に帰るなんて、とうの昔に諦めたはずなのに…彼女に『もうすぐ死ぬ』と言われた瞬間、無性に否定したくなった…



だが僕のその言葉が、彼女の中の何かを動かしたようだった…

彼女は幾分表情を和らげると…



「わかったわ…」

と言った…

微かだが微笑んでいるようにも見える…



「聞かせてちょうだい…? あなたの恋人の話…」





※フロイライン(独語)
英語の『Lady』と同意
ここでは『お嬢さん』という意味の呼び掛け
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み