第4話

文字数 973文字

「っと、その前に君のこと何て呼べばいいかなぁ? いつまでもフロイラインって呼ぶのもね…」



「別に… あなたの好きに呼べばいいわ…」



「そうかい? じゃあ『トロイメライ』と… 夢だとか幻って意味なんだ… 君にぴったりの名前だろ?」



「そうね… 悪くないわね…」



無表情にそう言うと、トロイメライは僕の隣に腰掛けた…

僕の視界に可愛らしい両膝小僧が飛び込んできた…
そこだけ見ればまるで子供のような足だ…

口調や佇まいは大人…
それも僕より長く生きてるのではないか?と思わせるほど落ち着いて見えるのに、見方によっては少女のようにも見える…



年齢を訊ねてみようかと思ったが止めた…

おそらく答えてはもらえないだろうし、そもそも女性に年齢を訊くのは失礼な気がした…



なんとなく()がもたなくなってきて、僕は軍服の内ポケットから1枚の写真を取り出した。



「ほら、これが僕の恋人の写真だよ。ヒルデって言うんだ」



写真の中のヒルデはいつも僕に微笑みかけてくれていた…
辛い時や苦しい時は、いつもヒルデの写真を眺めて耐えた…
すっかりぼろぼろになってしまったが、この写真は僕の宝物であり大事な御守りだった。



「笑顔の素敵な女性ね… 彼女に会いたい…?」



「そりゃ会いたいさ~ もう2年以上会ってないしね…」



最後にヒルデに会ったのは、新しい師団編成に伴う休暇で故郷に帰った時だった。

幸い故郷は田舎の小さな街なので、直接戦禍に巻き込まれることはないだろうけど、戦争と無縁というわけにもいかない様子だった。

ヒルデは郵便局で手紙や小包の仕分けの仕事をしていた。
戦時下では人と物資の輸送が活発になるらしく、ヒルデもとても忙しそうにしていた。

そんな中、僕たちは街の写真屋に行って記念写真を撮ってもらった。

軍服姿の僕とヒルデが一緒に写ってる写真はヒルデが…

ヒルデが一人で写ってる写真は今僕が持っている…



もっと時間があればヒルデにプロポーズするつもりだった…

だが僕の休暇も4日で終わり、別れ際に『必ず戻る』とだけ約束して故郷を後にした…



その後新しい師団に配属になった僕は西部戦線に送られ、何度も死にそうな目に遭いながらも今こうして生きている…



「ひとつ訊きたいんだけど…」



トロイメライの言葉で僕は思い出の世界から引き戻された…



「死ぬより辛い目に遭っても生きていたいか、それともいっそ死んで楽になりたいか… どっち?」



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