第6話

文字数 808文字

1945年4月30日
その日は朝から敵の激しい砲撃に曝された。

砲撃が止むと、爆煙の中から恐ろしい地響きを立てながら戦車が現れた。

僕たちは撤退するしかなく、防衛線を1㎞以上も後ろに下げた。

僕たちの後ろ…
しばらく行った先はもう官庁街だ…

ここを突破されたら一巻の終わりだ…



しかし敵の勢いは衰えず、僕たちの眼の前には戦車を盾にした歩兵が2個中隊規模で迫ってきた。

対する僕たちの戦力は1個小隊ほどしかない…
しかも皆傷ついてぼろぼろの状態だ…





前方から逃げ遅れた友軍兵士が、こちらめがけて駆けてくるのが見えた。

まだ若い兵士だった…



僕たちは皆口々にその兵士のことを応援した。



「早く来い!」

「もう少しだ!」

などと言った具合に…



兵士は必死に走り続ける…



あと20m…

あと10m…



しかし、あともう少しでこちらにたどり着くというところで、敵の狙撃兵に後ろから撃たれた…



撃たれた兵士は地面に倒れ、尚もこちらに来ようともがき続ける…
しかし走ることはおろか、立ち上がることさえ出来ない状態だ…



周りの戦友たちから落胆の声が漏れる…



絶望的な状況の中、僕は心の中で祈り続けた…



『トロイメライ! どうか奇跡を!!

と…



するとその祈りが通じたのか…トロイメライの声が聞こえた…



『もう一度訊くわ… 死ぬより辛い目に遭っても生きていたいか… それともいっそ死んで楽になりたいか… どっち?』



「何度訊かれても答えは変わらないさ! 僕は生きたい!! 戦争なんかで不条理に殺されるんじゃなく、僕は僕の人生を全うしたい!!」



『よくわかったわ… じゃあ10秒後に銃撃が止むから、その隙に前方に走りなさい… そして倒れてる人を抱えたら、すぐ近くの路地に入りなさい…』



これまでのことがあったから、僕は完全にトロイメライのことを信頼していた…

だから危険な『死地』に飛び込むこともできたんだと思う…

僕は10秒数えると、先ほど撃たれた友軍兵士が倒れている方に向かって猛然と駆け出した…



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