第7話

文字数 944文字

トロイメライの言った通り銃声が一瞬止んだ…



その一瞬の隙に僕は塹壕(ざんごう)を飛び出し、倒れている戦友を抱えると、すぐ近くの路地に転がり込んだ…

背後から味方の歓声が上がるのが聞こえた…



『そのまま路地を抜けたら広い通りに出るわ… 通りに出た瞬間に撃たれるけど右に跳べばかわせるはず… あとは次の路地まで急いで!』



「簡単に言ってくれるよ!」



思わず僕は愚痴をこぼした…

僕は怪我した戦友を抱えてるんだ…そんなに飛んだり跳ねたりできるもんじゃない…



でも、やるしかない!



大通りに出ると敵に狙撃された…

僕は戦友を抱えたまま右に跳んだ…

銃弾が空気を切り裂く音が耳元で聞こえた…

かなり際どいタイミングだったが間一髪かわしたようだ…



そのあとは死にもの狂いで走って路地に飛び込んだ…



ここまでは順調だ…

なんと言っても僕には幸運の女神がついている…
トロイメライの言う通りにしていれば僕たちは助かるはずだ…
少々キツいがなんとか乗り切るしかない…



しかし次のトロイメライの指示はさらに酷なものだった…





『次の広い通りに出る前にライフルを捨てて…』



なんだって!
この状況で武器を捨てろと!?



「トロイメライ、いくら君の言うことでもそれは聞けない! 君は僕に丸腰で戦えとでも言うのか!?」



『いいから言う通りにして!』



トロイメライのその言い方には有無を言わせない圧力があった…



「何なんだよ畜生ッ! これで良いのか!?」

僕は持っていたライフル銃を投げ捨てた。



その結果、銃を持っていた片手が使えるようになったので、戦友を抱えながらも少し早く走れるようになった。



なるほど…
トロイメライが言いたかったのはこういうことか?



もうすぐ大通りに出る…



「トロイメライ! 次の指示は?」



『指示はもうないわ… あとは祈りなさい…』



「え?」



呆気にとられながら僕は勢い余って大通りに飛び出した…

するとそこは敵の陣地の真っ只中だった…



たくさんの野砲が、さっきまで僕がいた塹壕の方を向いて設置されている…

僕はその後ろに飛び出してきたのだ…

僕ももちろん驚いたが、敵兵はもっと驚いていた…



僕はなすすべもなくその場にへたりこんだ…



慌てた敵兵たちが僕の周りを取り囲む…



「ああ、トロイメライ… どうして……?」



僕は空を見上げながら何度も訊ねたが、トロイメライの声はもう聞こえなかった…



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