第1話

文字数 704文字

敵、味方の銃弾飛び交う戦場の真ん中に彼女はいた…

彼女はさも退屈そうに空を見上げながら佇んでいた…

時にその辺りを歩き回り…
退屈しのぎなのだろうか? たまに小石を蹴ってみたり、鼻歌を歌ったりしていた…



スラリと腰まで伸びた銀髪…

透き通るように白い肌…



彼女は今や瓦礫となったこの街とはあまりにも不釣り合いで…最初、僕は幻覚を見ているのかと思った…



いや、本当に幻覚なのかもしれない…



繰り返すが、彼女がいたのは戦場の真ん中だ…

200m先は既に敵地で、僕たちは怒涛のように押し寄せてくる敵からかろうじてここを守っている…



建物の陰から少しでも頭を出せば狙撃兵に撃たれる…

朝はモーニングコールのように砲弾の雨が降り注ぐ…

あちこちから火の手が上がり、人間の死体が焼ける嫌な臭いがする…



生きている者など誰一人としていない200m…



彼女がいたのはそんな『死地』だったのだ…



どうやら長引く戦闘のせいで、僕の頭がおかしくなってしまったようだ…

だから本当は実在しない

が見えるに違いない…



事実、他の戦友には彼女の姿は見えていないようだ…



彼女は歩く…

瓦礫を積み上げて作った遮蔽物の陰から、小銃で敵に狙いを定める戦友の前を…

もし戦友に彼女の姿が見えていたのなら、間違いなく大騒ぎしたことだろう…



「はは、やっぱりね…」



思わず自嘲じみた笑いが込み上げてきた…

その笑いに気が付いたのだろうか? 彼女がこちらを見た…

彼女はしばらく訝しげな目で僕を見た後、こちらに近付いてきた…



僕の鼓動が高まる…

自分の生み出した幻覚にドキドキするなんて、ますますどうかしている…



そして彼女は僕の前に立つと、いきなりこんなことを訊いてきた…



「あなた、私が見えてるの?」



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