第2話

文字数 923文字

1945年4月…
今や帝国は断末魔の悲鳴をあげていた…



我らが指導者は、帝国の繁栄は千年続くだろうと豪語していたが、皆それが間違いだと気付いた時には全てが手遅れだった…



緒戦で華々しい勝利がいくつかあったものの、世界中を敵に回した結果、帝国は獲得した領土の全てを失った…

今や首都の官庁街を中心とした僅かな地域のみが、かろうじて僕たちの

だった…

そしてそこも周り全てを敵に包囲され、包囲の環は日に日に小さく閉じられてゆく有り様だった…



僕はモーンケ少将配下の親衛隊首都防衛部隊にいた。

首都防衛部隊などと勇ましい部隊名とは裏腹に、その実態は敗残兵の寄せ集めに過ぎなかった…



幸い僕のいる塹壕(ざんごう)は官庁街から少し離れていたので、敵の攻撃も散発的だった。

帝国の敗北は誰の目にも明らかだったし、敵も勝利を目前にして蛮勇に打って出る必要なんてないのだろう…



しかし官庁街にほど近い防御陣地だけは別で、激しい戦闘が昼夜問わず続いていた。

本来ならば僕たちもそこの防衛に加わるべきなのかもしれないが、そうするとここを守る者がいなくなる…

官庁街から離れているとは言え、ここを突破された場合、側面から敵を官庁街に誘引することになってしまう…



まさにそれこそが敵の狙いだった…

敵は僕たちをここに釘付けにするだけで良かったのだ…

当たり前のことだが…
ここを守るためには、僕たちの部隊はここに居続けなくてはならない…

それは戦力の分散を意味した…



また仮に僕たちが全滅したり、ここの防衛を諦めて撤退した場合、敵はここから一気になだれ込んで来るだろう…



いずれにせよチェック・メイト…

チェスなら完全に『詰み』だ…



結局のところ僕たちの部隊はここから離れるわけにもいかず、最後の一人になるまで戦って死ぬことが、僕たちに課された使命ということだ…



死はいつも隣にあったし、それを感じることも出来た…



むしろ今日まで僕が生き延びることが出来たのは、単なる偶然でしかなかった…


明日、僕は敵の銃弾に当たるかもしれないし…

僕の真上で榴弾(りゅうだん)が炸裂するかもしれない…



死ぬ覚悟はとうに出来ていたが、故郷に残してきた恋人のことを思う時、僕の胸は少しだけ痛んだ…



『彼女』に出会ったのは、僕が何もかも諦めようとしていたその時だった…



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