第2話

文字数 805文字

 あいつが現れたのは、つい先月のことだった。
 夏休み明けの始業式が終わり、教室へと戻ってくると、担任教師が一人の少年を連れて、我が五年三組の教室に入って来た。
「転校生を紹介する。海江田真司(かいえだ、しんじ)君だ。みんな仲良くするように」担任の言葉の後に、海江田と呼ばれた転校生は自己紹介を始めた。
 身長は僕より少し高く、ふくよかというよりは肥満児に近い体形。坊主頭に細い目ながらもなかなかのイケメンだ。きっと痩せたら女子にモテモテになるだろうと、勝手にジェラシーを抱く。
 緊張しているのか、海江田の言葉はたどたどしい。だが、関西出身らしくテレビで活躍している有名漫才師を思わせる話し方だった。その時は、彼が最大のライバルになるとは、微塵も思わなかった……。

 海江田が本領を発揮したのは、それから間もなくだった。
 その肥満気味な体型からか、体育の授業はからきし駄目だった。
 だが、お昼のあの時間になると、それまで最速を誇っていた僕を、遥かに凌駕する記録を打ち立てて、注目されるようになった。その日以来、彼がクラスの人気者になったのは言うまでもない。
 小さい頃から負けず嫌いの僕は、かけっこ、水泳などはもちろん、漢字の書き取り、掃除、テストや宿題の提出(その正解率はさておき)など、こと早さに関しては、一番じゃないと気が済まない性格だった。もちろんお昼のアレも例外ではない。最も、盛り上がっているのはクラスの男子ばかりで、女子たちは冷ややかな視線ばかりだったが。
 海江田の登場により、それまで如何に自分が井の中の蛙だったのかを思い知らされ、打倒海江田に闘志を燃やす。父親からは「何でも一番になる事は素晴らしい事だ、お前にはその才能がある」と言われ、ますますトレーニングに熱が入った。
 だが、お母さんには「その熱意が少しでも勉強に向かないものかね」と嫌味を言われる始末。正論だけに、言い返せないのが何よりも悔しい。
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