第218話 クラスの団結 Aパート

文字数 5,760文字



 せっかく先生からの約束とお願いを二つも取り付けて教室に帰って来たのに何か騒がしい上
「ちょっと岡本さん。いくら何でもやり過ぎ。何様のつもり? イイ気にならないでよっ!」
 私まで絡まれて気分も台無しなんだけれど。それに待たせたらうるさい冬美さんを待たせたらどうしてくれるのか。
「ちょっと私、急ぎの用事があるんだけれど、話とかだったら明日でも良い?」
 私の目の前の女生徒以外でも、九重さんと揉めている女生徒もいるから何が原因かすらも分からなかったんだけれど
「本当に何なの? そのスカした態度と言い自分は関係ないと言いたげな行動は。大体岡本さんがあの会長からの告白を断って学校側にクレームを入れたんでしょ?」
「大体こいつ、あろうことか夏休みから倉本君の誘いを断った挙げ句、倉本の顔を傷物にしたんだぞ」
 ……そうか。またあの人が原因で私たちのクラスの空気を悪くしてしまうのか。私は努めて相手にしないように、関わらないようにと帰る準備を進めて行く。
「何? 今日は徹底して無視? ちょっと自分はモテるからって調子に乗り過ぎ。性格悪っ!」
 何が性格が悪いなのか。自分は顔を出さずに今度は周りをけしかけて大勢人を寄こして私たちのクラスをまた引っ掻き回して。結局そうやっていつもいつも自分の手を汚さず、人に押し付けて。どっちの方が性格が悪いんだか。
「あのさぁ。うちらのクラスで好き勝手言うの辞めてくれる? そもそもうちらのクラスであんな会長に熱を上げるような女子なんていないし」
「それに顔って何? あのくらいの顔面偏差値なんてそこら中にいるし」
「みんな違う。顔なんでどうだっていい。それよりも男が女に手を上げるなんて間違ってる」
 それに全く気付かない、こいつらは本当にあんな男子が良いのか。相手にする気すらならないと言いたかったのだけれど、よくよく聞いてみると、みんなが少しずつ言い返しているのも耳に付き始める。
「はぁ? ちょっと自分が男にモテないからって僻むのは辞めてくれる?」
「何言ってんの? 手を出されたのはこっちの方なんだけど。人の顔をとやかく言う前に、その自分のぶっさいくな顔を鏡で『あっ!』――」
 本当だったらあんな人にどう言う形であっても関わるのは、冬美さんを待たせているのもあって可能な限り相手にしないと決めていたのだけれど、私の友達をけなすならやっぱり話は別だ。誰かの上げた声とともに反撃させてもらう。
「ちょっとお花畑。私の友達が……なんだって?」
 私は実祝さんの隣に並び立ってしっかりと声を落とす。
「ちょっと愛美。これ以上の暴力は良くない。あたしは大丈夫。全く気にしてない」
「何それ。先週は自分は可愛いって鼻にかけたと思ったら、今日はいい子ぶってるの? 本当岡本さんって性格悪いよね」
「ちょっと今の状態の愛美さんを刺激しない方が良いって」
 だけれど人が多いからか、相手の女子に全くひるんだ様子はうかがえない。
 ただ私の怖さを知っている二人が、それぞれ宥めに入った状態だ。
「おいそこのお花畑。話を変えんなって。私の友達が何だって言ったのかもう一回言えって言ったの。分かる? ――ちょっと実祝さん。何で私を捕まえんの? 言われっぱなしで腹立たないの?」
 だけれど文句を言いに来たのも、私の友達をけなしたのも向こうなのに何でこっちが我慢しないといけないのか。
「じゃあ言ってあげる。岡本さんらも含めてあんたらなんて全く可愛くないんだから、勝手に勘違いして被害者ぶるなって話。後、倉本君の麗しい顔に傷つけたんだから、あたしらのクラスで倉本君に謝るくらいはさせるから」
 だからこんな何の事情も知らない女生徒に好き放題言われるんじゃないのか。
「女子たちで話してるとこ悪いんだけど、俺たち男子も全員全く良くは思ってないから。だからそんな奴の為に俺らのクラスの連中が謝りに行くとかないんで」
 私のイライラが一段上がった時、涼しい表情をした男子が私たちの間に入って来る。
「あーヤダヤダ。学校中の女子からモテる倉本君への僻み。男の僻みってカッコ悪い――」
 だけれど、今日のクラスのみんなは、いつもとその雰囲気が違う。しかも何かに触発されたのか今までだんまりだった男子までが私たち女子の揉め事に参戦し始めている。
「なんか上から目線を感じるけど、あんな奴が良いなんて見る目の無い女子なんて、俺らからしたらいらねーから」
 人の減ってしまっているクラス内だけれど、それでも色々な男子も女子もいるのが分かる。
「ちょっと女子を一括りにするの辞めてくれる? このクラスの女子代表として言わせてもらうけど、うちらのクラスの女子全員、あんな男なんてノーサンキューだから、“学校中の女子”って言うのは訂正してくれない?」
 私が何かを言わなくてもクラスのみんなが、一つになった気持ちを次々と言葉にしてくれる。
「何なの? 何でこのクラスのみんな傲慢なの? 倉本君が部活の制限を解いてくれた――」
 そのクラス全体での反撃に、思ったように話が進まないからだとは思うけれど、簡単に冷静さを失ってイラつき始めるお花畑。
「――それは、部活を引退して、これから受験を迎えるあたしたちには関係ないじゃん」
 しかも終いには咲夜さんにまで言葉を取られてそれ以降、二の句が継げなくなっているこのお花畑。本当だったら後輩の部活であるとか言い返す事も出来たはずなのに、何も思い浮かばないのかこのお花畑の受験自体が心配になってしまうんだけれど。そんな考えなしで大丈夫なのか。
「傷心しているところ悪いんだけどさぁ、早く私の友達になんて言ったのか言ってくれるかな? その上で今、目の前で謝って欲しいんだけれど」
 つまりここ最近あの人のしていた事はそれくらいな訳で、後は私たちの責任に擦り付けるとか、後輩の女子に怒鳴りつけるくらいしかしていなかったわけで。
「……」
 だけれどいくら待っても私を射返して来るだけで実祝さんに対して謝ってくれる雰囲気はない。
「何なの? 人には謝れって言うクセに自分は謝らないの? ふざけてんの? 言っとくけれど自分からワザワザ私たちのクラスにあんな人の文句を言いに来たくらいなんだからみんな腹立ってるよ」
 だから特別に確かめた訳でも無いけれど、クラスの雰囲気は一つにまとまっているだろうからと、私が煽るとクラスの雰囲気が肯定の空気に包まれる。
「一つ補足しとくけど、別に俺らのクラスだけじゃなくて倉本を良く思ってない奴なんてそこら中にいるぞ? 後、お前みたいな倉本の取り巻きとかな」
 そう言えばその話も一度どこかで聞いた事がある気がする。
「ほんとに何なの? 倉本君ほど頭も良くてまとめる力もあって、その上将来も有望でお金持ちなのに何が不満なの?」
「ん?」
 途中までは一時期私も目標にするくらいは凄いなって思っていたけれど、どうしてここでお金持ちが出て来るのか。あの戸塚の成れの果てを目にして、将来なんて分からないものは“現在(いま)”判断出来ないとしても“お金持ち”と“不満”が繋がらない。
「岡本さん。そう言う態度が良い子ぶるって言うのよ。お金の嫌いな人なんてこの世に存在するわけないじゃない。本当にあざといわね。どうして倉本君もこんなあざとい女子が良いのか分からないわね」
「出たよ。女の十八番。金。本当に女ってカネが好きだよな」
「はぁ? そう言う男子だってエロと体だけじゃないの? そんな男子に女は金だけなんて言われるのは心外だわ」
 私が首をひねっている間に、話が俗物的な方へと向かって行く。
「ブスのクセに調子乗んな。あんな倉本が良いなんて女の体に用なんて『ちょっと待つ! あたしは別に良いけどその話はすぐに辞める! 愛美に聞かせたら絶対駄目! 特に蒼依の耳に入ったら大変なことになる!』――確かに」
「――なにそれ。それじゃまるで性格の悪い岡本さんはエロにもカネにも興味のない、純粋なお姫さまだとでも言いたいの?」
 私や朱先輩が大嫌いな構図が頭の中で出来上がりかけた時、あの実祝さんが声を上げて止めてくれるけれど、
「そうだよ。うちらのクラスでは岡本さんは“おてんば姫”なの。しかも岡本さん相手には誰が挑んでもどうにもならない程の純度を持ったね」
 いやちょっと待って。その“おてんば”って言うのは必要な単語なのか。もちろん“姫”の方もそうだけれど、私は優希君専用の“お姫様”なのだから、普通に“岡本さん”じゃ駄目なのか。
「何が“姫”よ。もうすぐ卒業だって言うのに幼稚な……バッカみたい。そんな幼稚な人たちに倉本君への暴力の文句や良さを知ってもらおうなんてあたしがバカだった。その相手がどんな白馬の王子様かは知らないけど、精々性格の悪い者同士――『また……』――っ?!」
 私を唯一お姫様扱いしてくれる騎士様――優希君――を頭に浮かべていたら、今ここにはいないまさかの優希君への文句。
「ちょっと待ちなって。何、人の彼氏にまでイチャモン着けてんの?」
 もちろん実祝さんもそうだったけれど、さすがにこれは黙っている訳にはいかない。
「え?! 岡本さんって彼氏『お前の質問なんでどうでも良いから! 私の彼氏に何の文句があんのか言えって』――っ!」
 何をとぼけようとしてんのか。あんたは先週優希君に私の何かを吹き込もうとして、手痛いしっぺ返しを食らっていたのは私もはっきり覚えているっての。
「だから愛美さんを刺激しない方が良いって言ったのに……こうなった愛美さんはあたしでは無理だから」
「ん。あたしも助ける気はない」
 むしろ私の怒りを後押しするような雰囲気すら見せる中、私が怒りを発散するのに手近な机を取り敢えず蹴ったら、さっきまで威勢の良かったお花畑が黙る。
「あんたさぁ。先週私を迎えに来てくれた優希君を目にしてるんだろ? なのに何をとぼけようとしてんの? 私が忘れてる、覚えてないってバカにしてんの?」
 これ以上の暴力は駄目だって色々な人から言ってもらっているから、わざと足音を大きくしたり周りの椅子や机に当たりながら本人に直接暴力は振るわないようにお花畑の目の前に対峙する。
「そ……そんな事言ったって、みんなの意見を聞くはずの副会長は、あたしの話なんて一顧だにしてくれなかったじゃない! だから副会長だって性格が悪いって――っ!!」
 なのにどうして私の努力を無駄にしようとするのか。この中で優希君を悪く言うのは大した度胸だけれど、少しは私の努力も勘案して欲しいんだけれど。
 思わず蹴った机がお花畑に当たったんだけれど、これは私は悪くないと思うんだけれど。
「何屁理屈コネてんの? 学校側からの要望や生徒からの要望ならともかく、なんで一個人の攻撃のために私たちが耳を傾けないといけないの? それがいじめや同調圧力に繋がりかねないってどうして分かんないの? その頭はただの飾り?」
 こんな訳の分からない女子に優希君の手を煩わせる訳にはいかない。
 なんだか最近ますます優珠希ちゃんの気持ちが分かる気がして来たんだけれど。そりゃこんだけ意味の分からない女子を優希君に近づかせる訳にはいかない。
「そう言う岡本さんだって今、あたしを集中攻撃してるじゃない! そっちこそ自分の行動を忘れてる鳥頭なんじゃないの?」
「分かった。あんたはもう優希君と喋んな『な?!』自分から他人の教室にワザワザ文句を吹っかけに来て、人の責任にするようなお花畑に、優希君の手を煩わせる訳にはいかないの。それを確約してくれるなら私の友達に謝るだけで今回は見逃してあげる」
 それにしてもあの人に関わると本当にロクな事が無いんだけれど。一体あの人は教室でどう――辞めた。あんな人を考えるのはやっぱり辞める。ただ、向こうから厄介ごとを持って来るのだけは次回の統括会でしっかりと抗議させてもらう。
「愛美。あたしももう良い。これ以上は時間の無駄」
 私は冬美さんを待たせているから早く帰りたいのを我慢して、このお花畑からの言葉を待っていた所に実祝さんの一言。
「……岡本さんの友達想いも分かるけど、こんな奴『っ』に謝ってもらったって仕方がないでしょ」
 まあ当の実祝さんがそう言うならそうなんだろうけれど、
「分かったよ。そしたらせめてあの人に“何の関係も無いのに厄介ごとを持って来るのは金輪際辞めてくれる?”って伝えてもらっても良い? 伝言くらいなら出来るよね」
 せめて一言くらいは何か返しておかないと私の気が済まないのだ。
「――っ! ホンっと岡本さんって最低の性格をしてるわね! 倉本君には岡本さんって本当に最低の性格をしてるって伝えておくから」
 あのお花畑の捨て台詞にまた、クラスに残っていたみんな――主に男子たち――が色めき立つけれど、
「あ! それは是非お願いね! それから今日の件は優希君にもちゃんと伝えておくからね」
 私からしたらあんな人からの印象なんて悪い方が良いに決まっているのだ。
「本当最っ低っ」
 なんだかんだ言いつつも、少しは気分晴れやかにお花畑を見送る事は出来た。

 先週に続いてお花畑を見送った私は
「みんなっ! ありがとうねっ」
 このクラスのみんなの想いを受け取った私は、まずは笑顔と共にお礼を口にさせてもらう。
「いやさっきも言ったけど、このクラスの雰囲気を考えるとうちも言いたい事はたくさんあったし」
「いや俺だってあの倉本には良い印象なんて持ってないぞ」
 そしたらクラスのみんなからのあの人の印象が再び溢れる。
「それに岡本さんの友達想いも見られたし、俺らのクラスは俺らで団結出来れば良いんじゃないか?」
 確かにそうかも知れない。あの辛さ、あの空気を味わった人たちで団結出来る気持ち、空気感って言うのはあるかもしれない。
「ありがとう。このクラスで私、本当に良かったよ」
 この中に蒼ちゃんが帰って来てくれたら――
「だから岡本さんもこのクラスの男子と付き合う――」
「――はい男子アウト! 岡本さん。アホな男子は放っておいて良いから。後はクラスの女子で男子は何とかするから」
 九重さんに甘える形で二年の後輩を待たせているからと先に教室を失礼させてもらう。

―――――――――――――――――Bパートへ――――――――――――――――
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み