第211話 蝕まれる心 Bパート

文字数 8,126文字


「じゃああたしは缶とかビンとか燃えないゴミを中心に集めて行くから、そっちのお二人さんは紙とか包装紙なんかの飛んでいきそうなのを集めてもらっても良いかい?」
 おばさまの気遣いで始まった町美化活動。どう言う理由かは分からないけど、時々缶やビンなどを遠くまで取りに行っては戻って来て、わたしたちにお菓子や飴玉なんかを差し入れして下さる。
「ところでお嬢ちゃん。今日の笑顔はいつもより可愛いけど、何か良い事でもあったのかい?」
 その間に紛れて、わたしよりも先に愛さんの笑顔を褒めてしまったおばさまが、今日わたしがじっくりと聞こうと決めてた事に口を出してくるおばさま。
 少しばかり愛さんから言ってもらえた“お姉ちゃん”に喜びすぎたんだよ。
 このおばさまは人懐っこい見かけに寄らず、策士なんだって認識しないと駄目なんだよ。
「はいっ! 初学期の頃から私にはお付き合いしている男の人がいるからって何度も断り続けていたんですけれど、今までは中々分かってもらえなかった上に、これ以上どう断ったら良いのか分からなくて朱先輩に以前から相談していたんですけれど、昨日やっと好きでもない男の人からの告白をしっかりと“お断り”出来たんです。しかも優希――お付き合いしている人からは、あそこまでしっかりと断れれば、もう向こうからは話しかけても来ないんじゃないかって言ってもらえたんです。今まで本当に悩んでいただけに、それが本当に嬉しくて安心で」
 かと思ったけど、わたしへの感謝を教えてくれた愛さんに免じて今日は見逃しておくんだよ。
 ……それにさっきお姉ちゃんとも言ってくれたし、空木くんの名前をうっかり出してしまった、可愛い愛さんも見られたし。
「おっ! やるじゃないか。最近の男は“もやし”みたいな、あっちへフラフラ、こっちへフラフラする情けない男が多いから、しっかり吟味して選ばないと甲斐性の無い男なんて掴んだら後が大変だからね。嬢ちゃんにはべっぴんさんのお姉ちゃんがついてるから、大丈夫だと思うけど男のしつけで何か困った事があれば、あたしに相談してくれても答えてやれるからね」
 愛さんの相談事は全部、愛さんの一番の理解者であるわたしの専売なのに……
「朱お姉ちゃん……」
 ……まあ。たまにはこの策士のおばさまに乗せられて“お姉ちゃん”と小さくつぶやいて笑顔を見せてくれた愛さんの気持ちを尊重――危ない危ない……。もうちょっとでわたしも首を縦に振ってしまう所だったんだよ。
 全く油断も隙も無いおばさまなんだよ。
「無いに越した事はありませんが、万一の時はまたよろしくお願いしますね」
 わたしのたゆたう気持ちなんて知らない愛さんが、わたしに苦笑いを向けた後、おばさまにまた色よい返事をする。
 確かにこんな愛さんばかり目にしてたら、空木くんも浮気どころの話じゃないんだよ。わたしと一緒でずっとハラハラしてないと駄目なんだよ。
「それじゃ話もまとまったところで、残り袋の中にもう少しだけゴミを入れて河川敷に向かうとしようかね」
 愛さんを待ってる間にわたしとは十分に喋ったからか、結局は愛さんとばかり喋ってたおばさまのせいで、町美化活動の間は全く昨日の愛さんの雄姿を耳に出来ないまま河川敷までの行動を終えてしまうんだよ。


 ゴミをいつものようにゴミトラックに乗せ込んだ後、あのおばさまがご主人の元へと帰られたのをやっとの思いで見送ってると
「それじゃあ朱先輩。お昼にしましょうか。今日もお昼から児童たちと遊ぶんですよね」
 完全に治ったその綺麗なお顔で、いつもとは違ってわたしの服の裾を恥ずかしそうに、遠慮がちに摘まみながら、でも当たり前のようにわたしとのランチを楽しみにしてくれてる愛さん。
「もちろんなんだよ! 今日も二人でランチを楽しむためにしっかり作って来たんだよ」
 だったら善は急げとばかりに、いつも通り適当な場所にレジャーシートを敷いて、ランチの準備を始めるんだよ。
「私も飲み物を持って来たので、いつも通り飲んでくださいね」
 と同時に、愛さんがレジャーシートの上に腰を落としてくれるけれど、何て言うか今日の愛さんのいで立ちは五分丈の水色のポロシャツにキュロットスカートなのに、上手くカバンを使ってまるでスカートを穿いてるような動きで腰を落ち着ける愛さん。
 まんま表現してしまえば、明らかに色々意識した上での所作。しかも座った後も足を浮かせることなくしっかりと伸ばしてるし。
 愛さんの中で増々女性として色々意識してるのが伝わるけど、ずっとその体勢って言うのもしんどいと思うんだよ。
「愛さん。それだったら足首でしっかりと交差させて体育座りをした上で、間にバックを置けば男性の目を気にしなくて良いと思うんだよ。それからスカートの場合だったら座る時にスカートの後ろ部分をしっかりと伸ばした上で、バックを挟みこんでから足首を交差させたら、他の男性から見られる心配“隙”も格段に減るんだよ」
 だから愛さんに、緊急の“隙”に対する助言をしたつもりなんだけど、
「そう……なんですね」
 そうつぶやいて、わたしが教えた通りの座り方に変える愛さん。
 さっきまではすごく素敵な笑顔で笑ってくれてたのに、笑顔どころか声にまで力が無くなってしまってるんだよ。
「どうしたのかな? 今、愛さんが思ってる事をそのまま教えて欲しいんだよ。わたしには遠慮も気遣いも何も必要ないんだよ」
 だからわたしの方から愛さんのすぐ隣へと寄せてもらって、低くなってしまった愛さんの頭を撫でさせてもらうんだよ。
「……この年になってもどうしてもなくせない“隙”に、自分自身が嫌になってしまって」
 だけど声に力が戻らないまま、昨日はしっかりとお断り出来た、空木くんも褒めてくれたって喜びのメッセージだったはずなのに、まさかの自己嫌悪を口にする愛さん。
 でも街中を歩いてても、どれだけ気を付けててもどうしても完全には無くせない“隙”“粗相”。
 しかもそれは短ければ短いほど多く、大きくなる訳で。
 それは年齢にかかわらず女性がスカートを穿く以上、男性の性を考えると不快だけど仕方のない話で。
 わたしはそれが

し不快に思うからから、いつも長いスカートを基本とした、お洋服の着合わせをしてるんだよ。だけど“お姫様抱っこ”までして喜んでくれた空木くんを考えても、愛さんには今その話は多分関係無くて。
 そうじゃなくて、空木くんに対して“大好きを頑張る、見せる”愛さんに対して、その気持ちを最大限に汲む事なんだと愛さんの一番の理解者であるわたしは、判断するんだよ。
「わたしは何があっても愛さんの味方なんだから、思ってる事、感じた事を話して欲しいんだよ。そして愛さんはもう少しワガママになっても良いんだよ」
 だったらランチは一旦後にして、まずは愛さんの気持ちと心を大切にしたい想いを乗せて、その背中をトントンって優しく叩くんだよ。
「……昨日。あの人からの告白を“お断り”する時に、大声を上げて私のすぐ横にあった金網フェンスを蹴られた時に、その迫力と言うか衝撃と大きな音にびっくりして、腰が抜けてしまって座り込んでしまった時に、よりにもよって一番見られたら駄目な人なのにスカートの中をずっと見られて、すぐに足を閉じたんですけれどそれでも見えていたみたいで、あの人がどうしても私の足元から視線を切ってくれなくて『――……』恐怖と混乱の中でその理由も意味も分からなかったんですけれど、汗だくになって遅れて飛び込んで来てくれた優希君が、角度や姿勢によっては見えてるからって、“私がそう言う指摘を男の人からされるのは恥ずかしいから嫌なんだろうけれど、あんな人に見せて欲しくないから”って断りと謝りを入れてくれた上で、さっきの座り方を優希君が教えてくれたんです」
 愛さんのお話の途中から、昨日貰ったメッセージからは考えられないくらい酷い状況が浮き彫りになって、想いもよらなかった分だけわたしの心が冷たく凍り始める。
 全く好きな女の子を怖がらせた挙げ句、なんて所ばっかり見てるんだよあの会長は。こんなのはもうビンタなんて生温い仕返しでは済まさない。わたしの愛さんを怖がらせて涙させたその罪は重い。
 だけどやっぱり今は、その罪悪感によって苦しんでる愛さんが第一で。どこまでも純粋な愛さんが笑ってくれるのが最優先で。
「わたしも順に気付いたら言って行くようにするから、一つずつゆっくりと確実にとっても素敵なレディになろう?」
 今も両膝の間にお顔を埋めてしまってる愛さんの性格なら、いくら会長からの酷い仕打ち、考えられない告白だったとしても他の人の責任にはしないだろうから。先の仕方がない“隙”の話同様、愛さんの気持ちを最優先で汲む方向で話を進めるんだよ。
「でも一度ならず二度までも……本当にこれ以上優希君に嫌な思いをして欲しくないんです。私は優希君だけの彼女でいたいんです。早く真っ新な私として心と体で折り合いを付けたいんです。他の男の人には見せて欲しくないって言ってくれた優希君の気持ちに何とかして行動で示したいんです」
 だけど、それ以上に空木くんに対する純粋な想いが強い愛さん。
 正直わたしから見ても、年頃の男の子で色々辛いはずなのにそれでも本当に愛さんを第一に想って、考えて……女の子としての愛さんの気持ちを汲んでくれた上でよく頑張ってると思うんだよ。
「でも空木くんは今の愛さんの気持ちは分かってくれてるだろうから、間違っても怒りはしないと思うんだよ」
 だけど、このまま二人が純粋な気持ちで頑張り続けてしまったら、どこかで息切れしてしまうと思うんだよ。
 だから二人共に、ほんの少しだけでも気を楽にしてもらった方が良いとは思うんだけど……
「でも私だって、他の女の子のそう言う“隙”だとか“粗相”だとかは見て欲しくないんです。私だけが嫌って言って、本当に私以外の女の子には目もくれていないのに『!!』私が、他の男の人に“隙”を見せるって言うのは違うと思うんです」
 だけどお互いで話し合ってお互いのお話を聞くと意識してる二人。だからこその問題に愛さんと同年代の他の女の子が“隙”“粗相”を見せてしまってる事もあるって気づいてない天然の愛さんに指摘するのとまた、今回は別件の心の問題だからわたしもすぐに答えを出せない。
 しかも愛さんがハッキリと言い切った“愛さん以外の女の子の“隙”には目もくれてない”にもびっくりするんだけど……
 実際そう言う場面自体に遭遇したのかな……だったらそこで他の女の子の“隙”にも気付けそうなもんなんだけど……
「でも空木くんとお付き合いを始める前に比べたら、格段にドキドキ、ハラハラする場面は減って来てるんだよ。それだけでも空木くんは喜んでくれると思うんだよ」
 だけどわたしから見ても時々ではあるけど見受けられる“隙”。そう言う話になった時に気になった“隙”の対策をまとめて伝えてはいるけど、愛さんにここまで言わせてしまうくらい愛さんにしか興味を持ってないなら、恥ずかしがり屋さんの愛さんに気付かれないように、その“隙”を見つけてこっそり楽しんでるとは思うんだけど。
「……確かに蒼ちゃんや友達からも驚かれたり褒められたりしましたけれど、そんな恥ずかしい話なんて私からは出来ませんよ」
 蒼さんの言葉を思い出して何とか前向きな気持ちになってもらえたみたいなんだけど、わたしの胸の内に今度はほろ苦さが広がるけどまあ、愛さんの性格ならそうなるよね。
 だからってわたしが直接空木くんとお話をしようにも、愛さんに警戒心を持たれるのも嫌だし。
「だったらさ。他の誰でもない蒼さんが認めてくれてるんだし、ちゃんと対策は活かされてるって考えるんだよ」
「そう……ですね。優希君も私の落ち込んでいる姿なんて見たくないって言ってくれていますから、昨日の下着は忘れて少しでも優希君の“

好き”に応えられるように、私自身が行動で示していくしかないんですよね」
 確かに愛さんの言う通りだし、空木くんから愛さんへの想いが“好き”から“

好き”に変わってるのからしてもホッと一息つきたかったのだけど、
「昨日の下着を忘れてって?」
 さっきまでの自己嫌悪と、愛さんの純粋な気持ちを考えると、言葉の意味が通らないような気がしたから――
「あんな人にだけは見せて欲しくないって言ってくれていたのに、よりにもよってその人に“隙”を晒してしまっていたので昨日思い切って捨てました」
 ――確認すると、更に驚きの話が出て来るんだよ。
 よりにもよっての会長だったからの、愛さんの思い切った行動だとは思うけど、普通そこまでするのかどうかは分からない。
 同年代のお友達が

わたしにはそこの機微が分からない。
「そっか。それも愛さんが空木くんに求めてもらうための“真っ新な愛さん”への準備なんだね」
 だから分からないわたしには、その判断については踏み込めない。その代わりにあんな事件があったからこそ、わたしはもちろん空木くんもこれっぽっちも考えてないはずだけど、その身をわずかにでもキレイに、真っ新にして一点の曇りもない愛さんを
 空木くんに求めてもらいたいと言ってた、愛さんの気持ちをなぞる形での返事になってしまうんだよ。
「はいっ! だからお母さんも男二人にバレない様に協力してくれました」
 しかもおばさままで愛さんの協力をした。つまり愛さんところの御夫婦もこれくらい仲が良いって事なんだと思うんだよ。
「じゃあ今よりもっと空木くんに喜んでもらえるように、蒼さんにももっと驚いてもらえるように、わたしもしっかり教えて行くんだよ」
 そうなると愛さんの“隙”が減るんだから、空木くん的には愛さん以外には本当に目もくれてなければ、増々残念にはなると思うけど、愛さんは本当に真っ新な心と体で、空木くんの前に立つ準備を進めてるんだから、辛いだろうけどもう少しだけ我慢してもらうんだよ。
「そうそう。どうしてもの対策としてスカートの時は、この時期だとまだ暑いかもしれないけど、スパッツを一枚重ね穿くかストッキングを身に着けるだけでも十分すぎる対策になるんだよ」
「……そうですね。それも選択肢には入れようと思います」
 今の愛さんの気持ちなら喜んでくれるかなと思ったんだけど……
「えっと。この対策は駄目なの?」
 やっぱり言葉の意味が通らない気がするんだよ。
「……いえ。駄目じゃないんですけど……そう言う場所を見られてる。男の人からの視線を感じるのが私的には恥ずかしかったり嫌だったりするのでやっぱり“隙”を無くす方向で話をしたいんです」
 ――もちろんもう少し涼しくなれば、スパッツは穿くようにすると思いますけれど。それに他の女の子のスカートの中が見えていなかったとしても、優希君が他の女の子のそう言う場所に視線を向けているのを知っただけで、絶対ケンカになるでしょうし――
 と言葉を付け足す愛さん。なんだか“隙”だけに話を留めてたわたしの方が恥ずかしいんだよ。
「分かったんだよ。もちろんそっちもこれまで以上にしっかりと教えて行くんだよ」
「お恥ずかしいんですが、よろしくお願いしますね」
 わたしも分からないなりに、何とか話をまとめることが出来たのか、お姉さんとしての威厳を保てた状態でこの話を終える。
「それじゃ午後からの児童たちの遊びの間にお腹が鳴ったら恥ずかしいから、少し遅くなったけどランチにするんだよ」
 その後は楽しい午後にするために、わたしたちも準備をするんだよ。


 それにしても今朝思い返してた、今週頭にかかって来た穂っちゃんからの連絡の話。
 そして会話と言うか会長に恐怖したが故に、腰を抜かしてしまった愛さんが見せたくない人に見せてしまった“隙”。
 いずれにしても初学期までの愛さんならほとんど見られなかった反応。
 特にあの事件以来わたしも頻繁に目にするようになった愛さんの驚愕反応。軽度PTSD。
「本当に朱先輩のお弁当ってオシャレで美味しいですよね。私ももっと上手くなって優希君にお弁当でも料理でも食べてもらいたいな」
 でも空木くん相手なら、そんな気配は全く無くて。今も本当に楽しそうに美味しそうに空木くんに食べてもらう場面でも想像してるのか、頬を赤らめながら食べてくれてる愛さん。
「空木くんだったら、愛さんが作れば何でもおいしいって食べてくれるんだよ」
 遂に愛さんへ伝わった空木くんからの大好き。
 それに愛さんのお料理も、今まで弟の慶久くんの分まで用意してた上に、あの慶久くんから全く文句を聞かなくなったところからしても間違いないと思うんだよ。
「でも、優希君ってものすごく料理が得意で、色彩まで考えられたお弁当なんてびっくりするくらい上手なんです」
 かと思ったら、これだけ愛さんを大切にしてくれて、その上頭も良くて、家事炊事も出来て。その年でそんなに完璧な男の子がいるのかなって思うけど、
「でも好きな女の子からのお弁当とか、お料理で喜ばない男の子なんていないと思うんだよ」
 それでも愛さんが嘘なんてつく訳なくて。
「そう……ですね。近い内に機会があったら一度食べてもらえたらなって思います」
 その証拠に愛さんが気合を入れて返事をする。
 ランチを始めた当初は、想いもよらなかった告白の状況から“隙”の話になり、わたしの心が凍てつくような感覚に襲われたけど、空木くんの話題で後半は何とか持ち直した空気の中で、ランチを終えて間もなく
「――っ?!」
 先週の愛さんの注意を覚えてた男子児童が、いきなり抱きついて来るんじゃなくて控えめに背中をつついただけで、
「ごめんなさい。お姉ちゃんびっくりさせた?」
 必要以上に身体をビクつかせた――驚愕反応を見せた――愛さんに申し訳なさそうにする男子児童。
「ううん。そんな事ないよ。むしろ先週のお姉ちゃんのお願いと約束を覚えててくれてありがとうね。女の子のお願いをちゃんと聞ける男の子はカッコ良いし偉いぞ!」
 その男子児童に向き直るほんの一瞬、愛さんが下唇を噛んで表情をわずか歪めた後、何事もなかったかのように笑顔で迎え入れた男子児童を一度抱きしめてから頭を撫でる愛さん。
「うん! 僕。お姉ちゃんの言う事ならちゃんと聞くから、今日も一緒に遊んで欲しい!」
「いいぞ! じゃあ今日はお姉ちゃんと一緒に鬼ごっこしよっか!」
 しかも、もう男子児童の恋慕を忘れてるのか、満面の笑顔と共に男子児童の相手を始める愛さん。

 その愛さんの意識してなければ気付けなかった一瞬浮かべたあの表情。
 そしてこちらも一瞬浮かべたあの男子児童のショックを受けた表情。
 今回は愛さんの思いっきりの笑顔で二人共が救われたけど、何も悪くないのにあんな表情をしないといけない二人を見て今度こそ心臓が濡れてしまったわたしは
「そしたら受付に行って申請して来るから、その間に児童をお任せしても良いかな」
「もちろんですよっ! そしたら行こっか」
 一度気持ちを落ち着けようと、嬉しそうに安心した表情を浮かべて、愛さんにぴったりと引っ付く男子児童を横目に受付へ向かう。

 ……穂っちゃんからの提案。愛さんの軽度PTSD――驚愕反応――に対する心療治療を、愛さんの心に負担をかけてまで行うのかどうかを迷いながら……穂っちゃんはああ言ったけど、この場合空木くんの協力も必要になるだろうから決して秘密には出来ない恐らくは認知療法――それに対して空木くんがどう判断するのかの想いを馳せながら。

――――――――――――――――――次回予告――――――――――――――――
              目の当たりにする心の傷
          それにより苦しめられる本人……と、周り

            そして聞かされた先日の告白劇と
               主人公自身の体の変調
     その変化の理由を知る先輩は主人公をどう(いざな)うのか

     「もう一度自分自身の中を見つめ直しながら考えてみますね」

            次回 第212話 心と体のバランス
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