第217話 親友の援護 Aパート

文字数 6,672文字



 午前中の授業は特にこれと言って何も無かったのだけれど、

宛元:優希君
題名:昼一緒に食べたい
本文:今朝の話をもう一度ちゃんとしたいから、昼の約束を予約したい。僕は愛美
   さんがエロくてもハレンチでも大好きだし、僕もエロくなるのは愛美さん
   だけだから

 授業開始前のほんの直前に、朝のエッチなままの優希君がメッセージをくれるけれど、授業間際にまで何を考えているのか。小姑である優珠希ちゃんからは私をかばってくれないのか。
 こんなの面倒臭い私がそのまま納得する訳が無い。

宛先:優希君
題名:ごめんね
本文:今日のお昼は冬美さんを始めとした二年と摂る約束を、もうしてあるから
   今日のお昼は無理かな? ごめんね。それに優希君は中々認めてくれない
   けれど、私はハレンチでも何でもないんだから、私の気持ちが優希君にしっ
   かり伝わるまでは、言葉と行動の両方で私も伝え続けるよ。だからしばらくは
   スカートもはなくなるかもね。

 私はしっかりと自分の気持ちを伝え続けると共に、お昼の予定も合わせて伝えてしまう。
 そうして迎えた昼休み。今日は二年の三人からじっくりと話を聞こうと、約束通り冬美さんの教室へ向かうために席を立ったところで、
「愛美。改めて愛美の口から金曜の会長の暴挙を聞きたい。朝は担任に邪魔された」
 こちらも最近すっかり違和感のなくなった咲夜さんと二人がかりで私の元へとやって来る。
「お誘いや気持ちは嬉しいけれど、ごめんね。今日も可愛い後輩たちが話を聞いて欲しいって連絡をもらっているから、また今度でも良い?」
 だけれどもう期限目前まで迫っている教頭先生の課題。それに来年度も統括会をお任せしたい二人の仲。二年で未だ消えていないであろう同調圧力。金曜以降のあの人の動向など、一連の出来事を頭の中で整理しても、今日のお昼は特に意味を持つ時間になりそうなのだ。
「最近愛美さんって二年ばっかりだよね。その感じだと空木君が好きでキスまでした議長も許したって感じ?」
 口付けまでって……でもそれは唇じゃないし、本当に優希君も嫌だったって涙ながらに話してくれたし、今では本当に不都合なことに、私だけへの下心でそれを表してはくれている……まあ。だからって赦した訳じゃ無いけれど。
「咲夜。それ以上愛美と後輩のキスの話をするのは厳禁。愛美だって傷つくし蒼依と仲直りするのに、その話は禁句。その蒼依からも今朝の件、学校側にはもう話したって来てた。その話もしたかった」
 それでも二人からの不満。それにしても本当に咲夜さんは恋愛に関して鋭いなって思う。
 だけれど最近二年に入り浸っている私の話をすると、冬美さんと優希君の結末――冬美さんの失恋の話――をしないといけなくなるから、直接の返事はせずに
「赦すも赦さないも、何も悪い事、後ろ指を刺されるような事もしていないのだから、冬美さんは私にとって“頭の固いとっても可愛い後輩”には変わりないよ。それから蒼ちゃんの件にしてもそう。私の親友や友達に今まで散々声を荒げた上、私のお気に入りの後輩の女の子に責任を擦り付けて、涙させたんだから今更あの人がどうなったところで、また変な期待をされても困るから、私から関わるなんて今後はないよ」
 全てを私の友達の話として置き換えてしまう。
「分かった。今日は大人しくしとく。それで万一会長がこのクラスに姿を見せたらクラス全員で追い払う」
 私には、友達を不用意に傷つける趣味は持ち合わせていないのだから。
「ありがとう実祝さん。それじゃ行ってくるね」
「……なんかあの様子だと、最後には会長まで赦してしまいそうだね」
「それはない。愛美の友達想いは凄い。その中でも特に蒼依に関しては友達想いの範疇じゃない。特別な厳しさ……とも違う。何て言ったら良いのか分からないけど、特別な絆みたいなのも感じる。その蒼依に声を荒げた以上挽回は不可。
 それはあたしも咲夜も身に染みてるはず――その中で無事仲直りが出来たあたしは……奇跡かもしれない」
 ……まあ。それだけじゃないけれど。私と蒼ちゃんは断金の交わりと言える関係なのだから間違ってはいない。
「……じゃああたしは?」
「……出来る。あたしがなんとかする」
「実祝さん……」
 ただあんな文面。誰にも言える訳無いけれど、私たちの学校内で起こった事件の内容を知っているはずなのに、私のお気に入りの、頭の固いとっても可愛い後輩である冬美さん相手に送った、あの気遣いも思いやりも感じられない、無機質なメッセージ。
 女の子にとって恋がどれほど大きなもので、大切なのかを分かっていない、ただ体を目的としていたのが透けて分かってしまった言動も含めたあの人。あれだけはどうしても駄目だ。
「つまり愛美さんにとって、あの二年の後輩たちもまた大切な友達なんだろうな」
「ん。だからあたしたちは今日は、大人しく愛美を見送る」
 言葉足らずでも実祝さんの気持ちは伝わったし、咲夜さんもまたその実祝さんを補う形で言葉にする事で、お互いの理解はもっと進んでいるように見える、思える。
「それじゃ時間も押すからそろそろ本当に行くね」
 だったらと安心して、私は冬美さんたちの教室へ何の憂いもなく足を向けられるのだ。


 私が友達二人のやり取りに心を温かくして冬美さんの教室へ顔を出すと、また何とも言えない空気が漂っていた。
「……岡本さんだって五分で来れてないじゃないですか」
「あっ! 愛先輩お待ちしてました! 愛先輩の文句ばかり言う雪野なんて放っておいて、三人で昼メシしましょう」
「……」
 いやちょっと待って欲しい。それはどう言う事なのか。金曜からのこの週末は三人でじっくりと話をしてわだかまりはなくなったんじゃないのか。なのに何で理沙さんは私の腕を取って“三人で”なんて言い出すのか。場合によってはまた呼称も考え直さないといけないんじゃないのか。
 まだまだ集団同調の無くならない、今のこの教室の雰囲気だったらみんなで協力して打ち破らないといけないんじゃないのか。しかも私にも言いたい事があるのか、時々色々な生徒から視線を感じるし。

さん。三人って言うのはどの三人を指しているの?」
 私の腕を掴んでくれた理沙さんの手を払いのけながら、続いて皮肉を言ってやろうと冬美さんの方へと足を向ける。
「冬美さんもごめんね。今までは私が一方的に無理難題を『ちょっと岡本さん! ワタシの教室の中で何を仰るんですか?!』――吹っかけ過ぎていたんだね。本当にごめんなさい」
 何が“仰る”なのか。挨拶もロクになしでいきなり文句を吹っかけて来たのは冬美さんじゃないのか。
「……」
 私は私たちの関係を何も知らないで冬美さんへの印象だけで、雰囲気を変えた教室内をそんなに私が冬美さんと喋るのがおかしいのかと不満を込めてひと睨みしてから、もう一言付け足してやる。
「じゃあ冬美さんは私が遅れたのは赦してくれるの?」
「赦すも赦さないも、ワタシは怒ってません。ただ自分勝手でワガママな方なんですねと思っただけです」
 そうか。冬美さんの中の私は“二枚舌・ワガママ・自分勝手”なのか。
 だったらせっかくだし、その印象通りにさせてもらうだけだ。
「ワガママでごめんね――そしたら彩風さんも。三人でお昼に『ちょっと岡本さん!』――何?」
「また雪野とばっかり……」
 なのに教室を出たところで、私を呼び止めると同時にせっかくつないだ手を振りほどいてしまう冬美さん。しかも理沙さんからも文句が聞こえた気がするし。
「“何?”じゃありません。どうして中条さんを放って三人なんですか。それに僻みもすごいんですから『あ?! こら雪野! お前っ!』――何が“お前”なんですか。いい加減岡本さんの二枚舌に慣れて下さい――名前を呼ぶのも考えて下さいと申し上げたじゃないですか」
 みんなして何を好き勝手言い出すのか。大体“三人で”お昼にしようと言い出したのは理沙さんじゃないのか。なのにどうして私のお願いを聞いてくれない後輩を、名前で呼ばないといけないのか。
「私は四人でってお願いしたのに、

さんが一人仲間外れにしようとしたんでしょ? その部分も含めてしっかりと冬美さんの言う通り“考えた”じゃない。なのに何で私が文句を言われないといけないの?」
 ただこのままだとゆっくりとお昼ご飯を食べる時間も無くなりそうだからと、いつものグラウンド横のテーブル席へと、冬美さんの手を握ろうとする私の手を躱し続ける冬美さん。一方理沙さんに手を引いてもらいながら、金曜日や今までの出来事を気まずく感じているのか、今日はまだ一言も発していない彩風さんと共に移動しながら抗議させてもらう。
「そう言う二枚舌なんて必要ないんです。どうしてそこで普通に四人でって言えないんですか」
 ――しかも呼び方なんて屁理屈を付けただけで、変わってもいませんし――
 と更に小声で文句を付け足す冬美さん。私は考えると言っただけで、変えるとは言っていないのにどうしてこうも私に対する雑言が後輩から無くならないのか。
「そうだね。冬美さんの気持ちとしては四人が良いんだよね」
 だったらこっちだって少しくらいは皮肉ったって良いと判断する。
「分かりました。それで結構です。その代わり四人でしっかりと食事を頂いた後、どうしてワタシを中心に集まったのかを説明して頂きますから」
 そんなはずはない。今日の集まりは週末三人で話し合った結果を伝えてくれるんじゃなかったのか。
 私は内心で抗議しながら、冬美さんの手を最後まで握る事も出来ずグラウンド横へと到着する。


 いつものグラウンド席。当然私の隣には冬美さんが腰を落ち着けて。私の正面に彩風さん。そしてはす向かい、一番遠い場所にこれまた不満顔全開で理沙さんの席配置でお昼を始める。
「それで

さんや彩風さんからはメッセージや電話をもらってはいたけれど、週末はどうだったの? あの人からの連絡『っ』は? ちなみに私のところにはあれから一度もないよ」
「その前にちょっと待って下さい。あのクソ会長の前に雪野と彩風の関係ですが……彩風。自分で言えるか?」
 つまりあの人から何かあったって事なのか。私が当たりを付けている間に小さく頷いた彩風さんが、ポツポツと語り出す。
「……去年から愛先輩に気があったなんて信じてなかったんです。ただ今年に入ってから清く――倉本先輩から聞かされたのは“このままだったら副会長に愛先輩を盗られてしまうけど、冬ちゃんが愛先輩と倉本先輩の中を繋いでくれるって。協力してくれるって申し出てくれたって。だからアタシにも清――倉本先輩の幼馴染なんだから、そのよしみとして愛先輩との関係作りに協力して欲しいって。アタシには愛先輩の好みや嫌いな物、好きな男の人のタイプなんかを聞き出して教えて欲しい。だからせめてものお礼で倉本先輩からは、副会長との仲を取り持つくらいはする”って……」
 彩風さんの声が、嗚咽でつっかえつっかえではあったけれど、それでも裏事情を全部話してくれたけれど、冬美さんからの申し出って……冬美さんやあの人から聞いた話だと

協力し合う関係だったんじゃないのか。
 なのに頭から全て冬美さんの責任に擦り付けてしまうつもりだったのか。
「……岡本さんならお気づきだと思いますけど、この話は一番初め、根っこからボタンの掛け違えが起こってたんです。
 ですから話がかみ合いませんでしたし、何度岡本先輩が仰って頂いても話が通らなかったんです。違和感を感じながらも、それを確かめようとしなかったワタシたちもやっぱり手落ちなんです」
 冬美さん以下私たちは、

での協力関係だと思っていた。だからあの人が、頑なに冬美さんの責任にし続けていた彩風さんの気持ちが分からなかった。
「でも冬美さんと優希君がその……色々した時には怒ってくれていたじゃない」
 もちろんそれ以前からも香水の話や、あの人のあからさまな態度による不和はあったけれど、実際はあの辺りから二人の仲は決定的にキレツが深まったように思えたのだけれど。
「それに空木先輩と一緒にお弁当を食べたり『良いよ冬ちゃん。ちゃんと自分で話すから』――分かりました」
 たった一言。これだけで十分呆れる話ではあるのだけれど、まだまだ先があるくらいは分かる。
 その彩風さんが理沙さんに背中を優しく叩かれながら、続きを口にしてくれる。
「だからアタシは愛先輩と副会長の仲を壊すためだけに、副会長とゴハン食べてデートに誘って挙げ句副会長にキスしたと思ってたんです」
 そうか。つまり冬美さんは優希君なんて好きでも何でもないけれど、初めに掛け違えてしまったボタンのせいでその全ての行動が私たちもしくは、彩風さんとあの人の中を壊すようにしか見えていなかったのか。
「今思い返せば本当に情けない話。あーしも男なんてただ浮気する生きもんなのに、副会長ににちょっかい掛けるとか愛先輩を泣かせようとするとか、この売女は何考えてるんだって思ってしまいましたからね」
「……」
 売女って……私のお気に入りでもある“頭の固いとっても可愛い後輩”でもある冬美さんに何て感想を持つのか。さすがに腹立った私が

さんに半眼を送ると、
「?! もちろん今はそんなこと微塵も思ってませんって! 雪野が遊び半分じゃなくて本気だったって事もそうですし、副会長からまさかのカウンターを貰うくらいには、愛先輩に一筋なのも理解してますって!」
 大慌てで今の印象を口にする

さん。
「しかもその時に、副会長からの気を惹こうと統括会を辞めるって、その気も無いくせに自演して、倉本先輩も副会長も全て冬ちゃんに意識を向けさせて、ワタシを悪者にしたって思ってたんです」 (114話ー116話)
 確かにあの時から彩風さんの思い込みの強さも目につき始めたし、信じられなかった申し出に対して冬美さんを特別気にしたのは間違いなく。
「そんな中で、実は冬ちゃんの想い人は副会長だなんて信じられる訳も材料も無かったんです。副会長をかばう冬ちゃんを目にしても、アタシは倉本先輩が好きだって文句と一緒に打ち明けた時にも、心底驚いた声を上げてましたけど、どっちにしてもいずれもすごい自演だなって思うしか出来なかったんです。それをアタシの前でまで見せつけて、倉本先輩との仲を壊したいんだなってその時にはもう憎悪の気持ちしか沸いて来なかったんです」
 だからだったのか。
“好きでもない男子に色気を出して、その間柄を壊してしまって”と憎悪の気持ちをぶちまけたのは。
「ちなみにこの前も彩風は、あのクソ会長から“愛先輩の好みの男は聞けたのか”とか“愛先輩が好きな物、そして今愛先輩が欲しがってる物、求めてる物“なんかも聞き続けられたんだろ?」
「……愛先輩と有意義な話をするために、愛先輩の好み、愛先輩の欲しがってる物なんかもたくさん聞かれました。そしてゆくゆくは愛先輩をもう一度抱きたいんだって……幼馴染で倉本先輩をよく知るアタシなら、その辺りの話や内容も含めて、愛先輩の好みと同様に倉本先輩の良い所も愛先輩に伝えられるだろって……」
 彩風さんの話に冬美さんは無言で首を横に振り、理沙さんに至っては完全に食べる手を止めて彩風さんに着く形になっている。
 そうか。あの涙されて困った週末はそんな話だったのか。それのどこが冬美さん残留の話なのか
 しかし何と言うか……これって幼馴染にである彩風さんに私を売り込ませるとか……全く話にならない。
 これのどこが協力関係なのか。強制的に協力させたって取っても良いんじゃないのか。
 彩風さんの積年の想いを考えると、いくら彩風さん自身がこうなるまで行動して来なかったとは言ってもあまりにもあんまりじゃないのか。一体男の人の中――いや。あの人の頭の中――では女の子ってどう言う言う扱いになっているのか。
 知りたくは無いけれどこれは聞いてみないと怒りが収まらないかも知れない。
「そんな中で冬ちゃんから今更本気だって聞かされたって、本当に今更感もあったし何より愛先輩の彼氏さんに本気だとか、アタシの頭の中ではもうその全部に意味が分からなくなってて、冬ちゃんさえいなくなればってずっと考えるようになってしまったんです」
 だから初めこそは冬美さんの暴力を否定し、残留に関しても協力的だったのに、すぐに足並みを乱したのか。

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