肉と刃(無患子)

文字数 492文字

十二月二十二日

クリスマスが近づく。うちの施設にも、一応クリスマスは来る。紙で作ったサンタクロースやトナカイを壁一面に貼る作業があるのだ。そしてイヴの夜には、一人一切れケーキが用意される。

サンタは来ない。正確には、手を差し伸べる者が来ないのだ。
この感染症はほぼ完治する見込みがないと言われている。医療費の寄付金を募っているが、感染者の数に比べれば僅かしか集まらない。
生活するだけで世間から煙たがられている私たちに、ましてやプレゼントなんて。

窓の外を眺める。あの門の奥に本当は私もいたのだ。何が悪かった? 何に罰が当たった? 私にもう一度救いは来ないのだろうか?

「もっと生きたい…」

喋った吐息で窓が白く曇った。テレビによれば、世間では、クリスマスの街は、華やかな電飾でいっぱいになり、鐘の音が鳴り響き、皆で豪華な食事をするのだ。画面いっぱいに映し出された肉がストンとまっすぐ切られていく。
「痛っ…」

誤ってナイフを押し当てた親指から血が滲んだ。こぼれない様に血を舐める。
こんなにも濃密な命の味。

この命は、何の為に生まれ、何の為に消えていく…?

テレビの中 肉の焼ける音が、静かな部屋に響いた。
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