冷えた爪先(無花果)

文字数 817文字

十二月二十日
私は、生きることに向いていないのである。
空白でいっぱい。「何もない」という感覚につつまれている。自分は何かに取り憑かれているのかもしれない。埋める何かが欲しくて、埋まらない空白を意識してしまうのかもしれない。
空白に食われていく。
計画と足元。予定していたはずの未来と目の前にある今。それは合致しそうでしない、交わらない平行線。その線はそのまま奈落へ足を進める。
進んでいるのは心だけ。奈落へゆっくりと踏み締めていく。十五歳。日常。


深夜に目が覚める
フローリングの上を裸足で歩く
暗がりのリビングに身を潜める
暗闇の中では机や椅子やテレビもないものと一緒である。
だから私も暗闇にいる今は無いものと一緒なのである。
みんな眠っていて何も認識しない。あるのは暗闇だけである。
窓の外を見ると、おもちゃ箱の中のプラモデルの様に、何も機能しなくなった街が広がっている。
誰もいない電気も止まり音もない。世界が休符を打っている瞬間。それは無とほぼ同義である。死のように見えるけど、死とは違う。


、と思う。
空白と無には大きく差があるからだ。

この時間だけ私は世界を俯瞰し、死を体験した気になるのである。

そしてそんな私も、フローリングの上で気づいたら眠っているのだ。

【足の感覚がなくなるまで雪に浸かった。
このまま雪と一体となって私の魂はこの山に染み通っていくのか
安心して清浄な死を遂げられるのではないか
無花果は穏やかな気持ちで雪山の奥地へ進む

異界の奥へ奥へ 消えてしまうように
何も見えなくしてしまうように
自分の身を引きずっていった

ここは天国なのかと思うが、頬が痛いのでまだ現実だ
はやく全ての感覚を無くしたい
はやく自分を失ってしまいたい
何もないここは、空っぽではなく、
安らかな悟りの極致を示している。
空っぽなのではなく、全てを意図的に排除したのだ。結果的には、排除したのではなく、白に塗りつぶしただけ……】


夢の中ですら、私は死に失敗するのだ。
夢の中ですら………

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