氷霧

文字数 488文字

空気が痛い。
吐息が熱い。
鉄の香り。
ドロドロと口から何かが垂れていく…
ハー…ハー…

生まれた時から人生は決まってる。私たちは、人生を自分で決めたように感じてるけど、それは勘違いよ。交わす言葉も思考も感情も最初から決まっていたこと。私たちに選択の余地はない。

…なのに、私はまた「選ぼう」としている。

「無花果(いちじく)!」

階段で足を滑らせ、視界がスローになったあと、何かのスイッチが押され、一面暗闇に変わった。一歳の時の微かな記憶だけど、これ以上の奇妙な不快感を、私は感じたことがない…
時計の針がゆっくりと逆回りに進んでいくような、太陽が西から登って東に沈んでいくような、朝に乗った飛行機から降り立った異国の地がまた朝だったときのような…
 一歳の時 階段で首を打ってから、私の魂は二つに割れてしまった。そして体も二つに分離し、二つの存在として生きていくことになった。
「十六歳になったら、お前らのどちらかがこの世から消えて、神様に嫁入りする。どっちが嫁入りするか、それはお前たちで決めなさい。命日は、十六歳になる年の誕生日、十二月二十五日だ」
私は無花果、…片割れは無患子(むくろじ)。
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