誰も知らない(無患子)

文字数 683文字

十二月二十四日午後十時

ろうそくの火を見つめていた。
子どもたちは寝静まり、大人も床の間に就き始めた頃。
パチパチと蝋の溶ける音がする。
小さな部屋の中、体育座りで、ただその時を待っていた。
〇時になれば、大人たちが来て、何かしらの方法で私は殺されるだろう。ずっと信じられなかったけど、やはりその時は、来るのだ。

廊下に出て、窓の外を見る。
外は絵に描いたような雪化粧をしている。
「サンタさん、来るかなぁ」

気づくと、小学生くらいの男の子がそばにいた。
施設にいる子供は、サンタからプレゼントをもらうことを知らない。でもなぜだろう。時々サンタを待つ子どもがいるのである。私と同じように、テレビなのか絵本なのかでサンタがプレゼントを届けることを知るからだろうか。

「あわてんぼうのサンタクロース♪ クリスマスまえーにやってきた…」
男の子は、かすれた声で鼻歌を歌い出した。青白い月光が二人を照らす。

「いそいでリンリンリン♪ いそいでリンリンリン♪…」

冷たい隙間風が素足に当たる。
来ないサンタクロース。迎えに来ない家族。届かない祈り。希望。夢。

ここは神も聖母もいない。誰も気づくことのない、無と同義の場所。私たちも、この世にもともと無いものと一緒なのだ。
【私はここにいる】
そう叫んだところで誰にも伝わらない。
では私たちはなぜ、体を、心を、声を、与えられたのだろうか。

「サンタ、遅いね…」

私たちの存在は、果たして何かの役に立つのだろうか?

神の暇つぶしか?
運命の気まぐれか?

私はこの生涯の苦しみ、夢、絶望に、何の昇華も得られないまま消えていく。誰の救いも得られず、何の意味があるのかも知らずに…
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