鼓動は命を削る音(無花果)

文字数 591文字

十二月二十三日

歩道橋の向こうを見つめる
やさしく風が髪を撫でる

風が冷たい分、草や土の匂いがはっきりと香る

走ったその分急いだ余韻が心臓に伝わる
全ての行為に余韻がある
言葉。記憶。体温。
冷えた空気が肺に入り痛みに変わる

痛いはずも辛いはずもないけど、
なんか……
その語尾の先に来る言葉は見当たらない

演奏後の余韻
苦く
ドラを叩いた後の余韻が尾を引く

鼓動は鐘の音の余韻である
いつ無音に辿り着いてしまうのかは分からない
日々が余韻に満たされる
なんか……
その先に当たる言葉は、やはり見当たらないのである。

〈十六歳になったら、お前らのどちらかがこの世から一度消えて、神様に嫁入りする〉…

家族は、無患子を死に追いやるつもりでいる。

doq doq……

誰もがその選択を選ぶだろう。私が選ばれることはない。

doq doq……

しかし、死は、望んでいる者のもとへ届けられはしないのだろうか? かつて無患子は私にこう言った。

「お姉ちゃん、私ずっと長生きできるよね?」

今の医療は日々発達している。無患子が一生感染症のままか、そんなことはわからない。もしかしたら無患子のような感染者が私たち健常者と同じように生活できるような日が来るかもしれない。ディーツー〇八七が風邪と同じような軽いウイルスになることだって考えられる。無患子は確実に生を望んでいる。

「きっと誰か助けてくれるよ」

無責任にこう答えることしか、私にはできなかった。
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