唯一無二(無患子)

文字数 487文字

十二月二十五日午前〇時

ガラガラ…
誰かが部屋の戸を開けた。

振り返る間も無く、視界は真っ暗になった。布を被せられたのだ。
瞬間、これ以上ない恐怖が押し寄せた。
大人に腕を掴まれ、どこかに連れていかれる。
何も抵抗できない。だってこれは初めから決まっていたことだから。
真っ黒い視界の中、ろうそくの火が脳裏に見えた。

だってさっきまで生きていたから… ナイフで切れば鮮やかな血が流れ、手を握ればきっとあたたかい。
わたしはどうなるの。どこに連れていかれるの。

死に触れる。真っ黒い、冷たい……世界でたったひとつの………………私の死。


【遺書

何がいけなかった? 何か罪を犯した? なぜ助けてくれないの。なぜ誰も気づかないの。

クリスマス 私はいつもろうそくの火に自分の夢を見た。生きていればいつか必ず何か変わるって。
でも刻々と時は過ぎ、私は十五歳になってしまった。

十年 神を待ち続けました。でも今日の今日まで、あなたは来ませんね。

私が生まれた理由が、私には分かりません。
誰も喜ばない。誰も気に留めない。
私は、なぜここに連れてこられたのでしょうか。

私には分かりません。             無患子】
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