第7話 容疑者Ⅵは、競合する学習塾長

文字数 1,262文字

第七話 みらい塾は眼の上のたんこぶ
 吉田肇は関東地区大手〇塾フランチャイズ店のオーナー兼教師。コンビニと同様にフランチャイズ契約だから教室の設置、運営管理システムは一式譲り受ける。開業は七年前、「みらい地区」の住民層、小中学校の配置、生徒を呼び込める立地条件などを、本部が経験値より熟慮を重ねた上で十三番館の一階に設置された。
 生徒は小中学生。科目は算数(数学)、英語、国語が中心。名が在る大手塾だからSNSでの広告とポスティングだけで容易く生徒は集められると考えていた。ところがそう簡単には行かない。
 特に小学生がなかなか集まらない。みらい地区には二校の小学校があり生徒数は合計で二千人もいる。少子化にあっては凄い生徒数。さすがに関東圏人気のエリアだ。学年によって塾に通う割合は異なるがおよそ三~四割と見て600~800人。

 この数を五軒の塾で競う。このうち二校は最寄りの二つの駅近にある。隣接する他の地区からの生徒も囲い込む作戦。だから直接の脅威とはなっていない。残りは二つ。もう明らかだ。一つは初老の男性が趣味程度で算数(数学)を教えている。数は大したことはない。問題は「みらい塾」。
 ここは一番古い。「みらい地区」が徐々に拡大する頃に出来た。地区の中央に位置する。規模は二十人の教室がひとつ。足りなくなれば地区の集会所を借りているらしい。塾長は三十半ばの若輩。算数、理科、英語、国語、社会と幅広く教える。
 肇はこの男性を始めて見た時に、なるほど高身長でこの容姿(三浦春馬(死去)似)ならば若いママから高い支持を得るだろうと思った。中年で腹が出た自分ではとても容姿では敵わない。
 しかも過去の実績(進学先)も良好で非の打ちどころがない。中学生対象の塾ならば諦めもつく。学習塾は小学一年生に重きを置く。だって中学三年生まで九年間の授業料を見積もれる。小学生は{ありがたいお客さま}なのだ。
 最優良客をごっそり奪われては、やはり我慢のならない処だ。本部からは最終手段の「ネガティブキャンペーン」を指示される。つまり過去の経歴、素行を辿り、負の部分をチラシでさりげなく暴く。
 三流大学卒とか相応しくない学部、はてまた学生時代の品行にまで踏み込み、こちらに有利な情報を探り出す。たぶん本部は提携の探偵事務所に依頼しているのだろう。過去にはびっくりするほどのプライバシー(スキャンダルまがい)が出て来る事例もあった。
 ただ、そのまま使ってはならない。今の世の中、個人情報は保護されていて、侵害すれば逆に制裁を科される。したがって、チラシの小文字の部分に何気に近くの塾の情報として流す。
 この手のゴシップに人は鋭く反応する。文字は小さいほど良好な反応を示す。本部からの調査報告を待った。けれど、出て来た情報は眼を見張るものだらけ。
 東大大学院理学系研究科博士課程卒。学生時代の素行に異を唱える者なし。学業優先。アルバイトの経験もナシ。職歴ナシ。次に薬学に関する特許取得。
 これではネガティブではなく褒める材料だらけ。ウンザリする。

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