第10話 最後の晩餐(上)
文字数 1,939文字
古都華はいたずらっぽく目を輝かせて、タブレットの上で素早く指を動かし、動画を開いて見せた。
Six13は、2003年に結成されたニューヨークを拠点とするユダヤ系アメリカ人の男声アカペラグループ。
この6人組のグループは、ポップスのヒット曲にユダヤ教をテーマとする歌詞をつけてパロディ化することで知られている。また、イディッシュ語、ヘブライ語の名曲をカバーしたり、ユダヤ教の伝統的な祈りに基づいたオリジナル曲を作ったりしている。
古都華と安祈世は、少し困ったように顔を見合わせた。
古都華は再びタブレットを手に取り、1枚の絵を見せた。
レオナルド・ダ・ヴィンチ「最後の晩餐」(1495年–1498年)
除酵祭の第一日に、弟子たちがイエスのところに来て、「どこに、過越の食事をなさる用意をいたしましょうか」と言った。 イエスは言われた。「都のあの人のところに行ってこう言いなさい。『先生が、「わたしの時が近づいた。お宅で弟子たちと一緒に過越の食事をする」と言っています。』」 弟子たちは、イエスに命じられたとおりにして、過越の食事を準備した。 夕方になると、イエスは十二人と一緒に食事の席に着かれた。
(マタイによる福音書26章17節-19節)
安祈世は自分のタブレットを取り出し、動画を開いて見せた。
「血潮したたる」(J.S.バッハ『マタイ受難曲』より)
演奏:Vocalconsort München & Ensemble, Johanna Soller(指揮)ほか
録音:聖ペテロ市教区教会、ミュンヘン、2019年4月3日
「血潮したたる」、"O Haupt voll Blut und Wunden"(おお、血と傷だらけの御頭よ)は、ドイツの讃美歌である。
『マタイによる福音書』の第26章と第27章に記されたイエスの受難を題材として、J.S.バッハが1727年に作曲した『マタイ受難曲』(BWV244)の中では、この讃美歌が主題として繰り返し用いられている。