第8話 食前の祈り
文字数 1,624文字
古都華は、大麦粉の余りを調理台に薄く振りかけた。
翠はボウルから生地を取り出し、打ち粉を振った台の上に置いて、短い円筒形に丸めていく。
翠はうなずいて、円柱状の生地を手でちぎって三つに分けた。
2個は調理台の上に置き、残りの1個は手で丸めて小さくする。
麺棒に打ち粉をまぶし、小さく丸めた生地を麺棒で平らに伸ばしていく。
安祈世は、あらかじめオリーブオイルを塗り、中火で予熱しておいたフライパンに、平たいパン生地を入れた。
片面を2分ほど焼き、フライパンを揺すると、生地がくっつかずにすっと動く。
焼き色がつき始めたことを確認して、さっと裏返した。
安祈世が1枚目の生地を焼いている間、翠は残りの生地も同じように丸めて、麺棒で伸ばしていた。
安祈世は、焼き上がったパンを皿に取り、休ませる。
間を置かず、2枚目にとりかかった。
3枚目を焼いている途中で、18分にセットしたタイマーが鳴った。
安祈世は3枚目のパンを焼き上げて、皿に置いた。
三人は調理台を片付け、試食用テーブルに皿を運んだ。
安祈世は軽く目を閉じ、両手を組んで、小さな声で祈り始める。
翠は目の前の皿に伸ばした手を、思わず引っ込めた。
翠の耳元で、古都華がささやく。
これからいただくこの食事を祝福してください。
今さまざまな事情で十分に食べられない人々に、必要な糧(かて)をお与えください。
このお祈りを主イエス・キリストの御名(みな)を通して、御前(みまえ)におささげいたします。
アーメン。
三人の少女たちは一枚ずつ平たいパンを取り、手で小さくちぎって、口に入れた。
パンの作成及び写真撮影:著者
※『こどもさんびか』(日本基督教団出版局)より「めぐみのかみさま」