第1話 プロローグ
文字数 805文字
10月4日、ミルトス大学高等学校。
放課後の廊下を、翠(みどり)はきょろきょろしながら歩いていた。
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講堂の前で立ち止まり、そっと扉を開けて、中を覗く。
誰もいない。
正面を見上げると、ステンドグラスがきらきら輝いていた。
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期待と不安の波が胸にこみあげてくる。
翠は講堂のベンチに腰をおろし、学生支援課から受け取ったタブレットを取り出した。
指先で授業カリキュラムを開く。
ミルトス大学は、キリスト教精神によって立つ学園である。
金雀枝(えにしだ)町にある広大な大学キャンパス内に、附属の小中学校、高校があった。
翠は立ち上がって、その場を離れた。
放課後のクラブ活動に向かう生徒たちの流れをさかのぼるように、ふたたび歩き出す。
ちょうど、一年生の教室にさしかかったとき、黒髪を二つに結んだ少女とすれちがった。
翠は立ち止まって、少女の背中を見つめる。
翠はすぐに少女を追いかけはじめた。
ごった返す廊下で、危うく何人かの生徒にぶつかりそうになって、翠は少女に追いつく。
息をはずませながら、声をかけた。
少女はふり返り、翠のほうを見た。
二人は並んで歩きはじめた。
喜びにはずみ、踊るような軽い足取りだった。