第1話 プロローグ

文字数 805文字

10月4日、ミルトス大学高等学校。


放課後の廊下を、翠(みどり)はきょろきょろしながら歩いていた。

(明日からここに編入するんだ)
講堂の前で立ち止まり、そっと扉を開けて、中を覗く。

誰もいない。


正面を見上げると、ステンドグラスがきらきら輝いていた。

わあ、きれい!

期待と不安の波が胸にこみあげてくる。


翠は講堂のベンチに腰をおろし、学生支援課から受け取ったタブレットを取り出した。

指先で授業カリキュラムを開く。

毎週月曜日にここで礼拝……


うわ、必修科目のキリスト教概論ってなに!?

ミルトス大学は、キリスト教精神によって立つ学園である。

金雀枝(えにしだ)町にある広大な大学キャンパス内に、附属の小中学校、高校があった。



翠は立ち上がって、その場を離れた。

放課後のクラブ活動に向かう生徒たちの流れをさかのぼるように、ふたたび歩き出す。

(寮生活がしたくてミルトス高校を選んだけど、思ってたよりガチなやつだった……)


(キリスト教の授業って、どう成績つけるんだろ?)

(……信仰心?)

ちょうど、一年生の教室にさしかかったとき、黒髪を二つに結んだ少女とすれちがった。


翠は立ち止まって、少女の背中を見つめる。

(あれ、あの子……!?)
翠はすぐに少女を追いかけはじめた。


ごった返す廊下で、危うく何人かの生徒にぶつかりそうになって、翠は少女に追いつく。

息をはずませながら、声をかけた。

アキちゃん!!
少女はふり返り、翠のほうを見た。
えっ、もしかして、ミドリちゃん!?

うん! 小さい頃、よく一緒にあそんだよね!!


わたし、明日からここに編入なの。

ほんとに!? うれしい!!

同じクラスになれるといいな。

よろしくね!!

ミドリちゃん、校内はもう見た? 案内するよ。
いま、見て回ってたとこ。

講堂のステンドグラス、きれいだったー!


アキちゃんはこれから部活?

うん、よかったら一緒にこない?
行くー!
二人は並んで歩きはじめた。

喜びにはずみ、踊るような軽い足取りだった。

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登場人物紹介

星山 翠(ほしやま みどり)


高校1年生。ミルトス高校に編入。

森野 安祈世(もりの あきよ)


ミルトス高校1年生。家庭科部。学生寮に住んでいる。

母は牧師。

翠とは幼なじみ。

高墨 古都華(たかすみ ことか)


ミルトス高校2年生。家庭科部の部長。

帰国生。

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