第19話 ドラマ「約束 ~16年目の真実~ 」「アンチヒーロー」雑感

文字数 2,147文字

 日本テレビ系で放送のドラマ「約束 ~16年目の真実~ 」について、先日最終回を迎えたのに併せて、前回記した拙文に補足してみます。

 作中で三十四歳の天草が個人タクシーの職を得ていたことに、私、前回ちょっと無理があるんじゃないかと疑義を呈しました。
 その後、同ドラマの第七回において、「天草はカメラマンを目指していたが四年前に見切りを付けて地元に戻ってきた」という旨の描写がありました。これを素直に受け止め、解釈するなら、四年間で個人タクシー運転手の職を得たことになります。前回記しましたように、四年では絶体に無理のはず(いや可能だよという方がいらっしゃいましたら、方法を教えてくださいませ)。
 で。
 嘘を描いてけしからん!と不満をぶつける代わりに、作品に対してあくまでも好意的に解釈すると――犯罪組織の一員である天草は、隠れ蓑として個人タクシーの運転手と偽っていた。個人タクシーとして活動できれば新たに募った仲間を送り迎えするのにも便利なので、犯罪組織が偽造書類やら何やらをすべて用意してくれたのだ――なんていうのはいかがでしょうか。何となく辻褄が合っているし、悪くはないかも?
 ただ、日本に帰国後四年の天草に偽の個人タクシー運転手をさせるのは、警察や他のタクシー会社などから疑われる端緒となり得る訳で、犯罪組織が敢えて天草にさせるのはおかしいとも言えます。
 また、天草が犯罪組織に加担している伏線として描いたのなら、四年で個人タクシー運転手は無理ですよって、作中で示してくれないと意味がない訳で。

 些末なことに拘らずに物語を楽しめばいいのに、という向きもおられることと思います。が、本ドラマは一応、刑事物・推理物・事件物といったミステリの系統に分類されるでしょう。さらに言えば、年代や場所(国・都市)も明示している。
 少なくともミステリ系の物語(映像作品、小説、漫画その他すべて)は、観る側も作る側も物語世界の法律を念頭に置くべきだと考えますが、どうでしょうか。作中人物、特に捜査側の人間は法律に則って行動するのが基本ですし、法律を利した手掛かりの提示やトリックもあるのですから。



 ここからは、もう一つ別のドラマについて。
 TBS系で放送のドラマ「アンチヒーロー」、今期ドラマの中では比較的評判がよく、私も楽しみに視聴を続けています。その期待作の最終回手前、第九回を観ていて、ふと引っ掛かりを覚えたことがありました。それは、

・桃瀬は毒の鑑定結果に疑いを抱いていたのに、そのことを明墨に伝えなかったのは何故?

 というものです。この疑念を伝えさえしていれば、明墨は検察の不正にもっと早く辿り着いていたと思えてなりません。
 先入観なしに明墨に資料を読んで欲しかったのでしょうか。
 些末な事柄なら、それでいいかもしれません。
 しかし毒(事件の凶器)に関わるとなると、超の字が付く重要事項です。あとを托す明墨に直接伝えず、たくさんある付箋の一つに注意を向けるのを待つなんて悠長なこと、できるでしょうか? しかも問題の付箋が貼られた資料は、以前受け取った物ではなく、現在になってやっと遺族から新たに渡された物のようです。桃瀬は毒についての疑念を軽視していたのかとさえ思いたくなります。
 もしくは、桃瀬は明墨に協力を求めはしたけれども、完全に信じた訳ではなかった。切り札になり得る毒の鑑定結果に疑問がある話は伏せたかった? これならまだありそうですが、自らの命が危ぶまれる段階になっても、一番重要な点を積極的に伝えないというのは、首を傾げたくなります。

 ここからさらに三通りの仮説を考えてみました。
 一つ目はメタ的に、制作サイドの事情。すなわち、窮地に追い込まれた明墨側が大逆転するためには、新たな証拠が必要。それを演出するためには、桃瀬が直接伝えることなく、明墨が今になってようやく気付く、という形を取らざるを得なかった。いわゆるご都合主義と言っていいかもしれません。
 二つ目と三つ目はあくまでもストーリー上の出来事として考えます。いずれも無理があるのは承知の上。
 まず二つ目。毒に関する疑義は伊達原による細工であり、実際にはちゃんと鑑定されている。新証拠を掴んだと喜ぶ明墨を最終的にやり込めようと、伊達原が仕掛けた罠。ただしこの場合、取り調べの段階から仕込み(取り調べに当たった刑事が、偽りの毒の症状を口走る芝居を打つ)をする必要があり、非常に無理があります。加えて、その時点で明墨は検察の人間なのだから、何のために仕込むの?ということにもなる。アリバイの証拠を握り潰した件が将来発覚した場合に備え、敵を仮想していたのだ……と解釈してもかなり厳しい。
 三つ目。桃瀬は志水を救うこと以上に、明墨を罰したい、苦しめたいと考えていた。何なら志水の刑が執行されたってかまわない、志水の死について明墨が重荷を背負えばいい……なんてストーリーでは伏線がないにも程がありますので、やはり無理筋でしょう。

 そんなこんなで、現時点では(残念ながら)制作サイドの事情と解釈するのが、一番納得がいくような気がしますが、さて。
 最終回では、私の些細な引っ掛かりなど吹き飛ばす、怒濤の展開を期待しております。(^^)

 それでは。
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