第5話 映画版屍人荘の怪力妖怪

文字数 1,985文字

 今回はネタ一つだと分量が少ない気がするため、合わせ技で行きます。
 前半で“ミステリのあらすじ”のまずいケースについて述べ、後半で映画「屍人荘の殺人」の雑感を綴っています。

1.あらすじについて
 ミステリのあらすじを読んだだけでネタが分かってしまった――長くミステリを読んでいると、そんな経験も一度ぐらいあるかもしれません。
 私もあります。
 作品名は忘れましたが、ノベルスのカバー折り返しか裏表紙にあったあらすじで、「誘拐された人物Aの指が送られて来た。その切断面に生活反応は見られなかった。」と書いてあったんです。
 ミステリを読み慣れた人だとこんなあらすじを読まされたら、「あ、Aが黒幕だな」とぴんと来るのでは? 指を切断したあと、もう一度落とした指の切断面側を薄くスライスすれば、生活反応が出なくて当然。Aは自身が死んだように見せ掛けたいんだなと推測できる。実際、そういう内容だったと記憶しています。
 これは作品が悪いのではなく、あらすじの書き方がよくないように思うんですよね。あらすじで生活反応云々は言及せず、指が送られてきたことだけで止めておく。あとは本文で読ませるべきだったんじゃないかと。あらすじの段階でAが死亡したようなことを強調するからかえって疑念が生まれた、と感じました。


2.映画「屍人荘の殺人」雑感
 遅まきながら、映画「屍人荘の殺人」を観ました。原作小説はまだ序盤しか読んでいない(コミックスは一巻だけ読んだ)のですが、誘惑に勝てず、つい。
 原作から受けた印象以上にコミカルさを強調した造りになっていたように思えて、そこは多少違和感を覚えましたが、概ねよかったかと。
 内容ももちろんよかった。噂に違わぬロジカルなミステリが繰り広げられて満足感を得られました。
 その辺りを認めた上で、敢えて重箱の隅をつついてみますと。

 ※以下、『屍人荘の殺人』のネタバレ注意です。数行空けます。原作小説と映画とでどれほど異なっているのか分かりませんので、映画を未見の方だけでなく、小説を未読の方もご注意・ご了承を願います。あ、コミック版一巻にもちょっとだけ触れています。















 本作にはエレベーターの重量制限を利したトリックが登場します。いわゆるゾンビが乗り込んできてエレベーターで移動してこないようにするために、上限ぎりぎりの重さになるように銅像(?)一つを箱の中に運び込んでおくのですが、平均な成人男性一人と銅像一つでリミットぎりぎりって、銅像はどんだけ重たいんだ? あるいは、このエレベーターのリミットはどんだけ少ないんだ?と疑問に感じました。
 序盤のシーンから、エレベーターは少なくとも二百五十キログラムは耐えられそうです。
 ここから成人男性一人分を差し引けば、百九十キロぐらい。ゾンビ一体は軽めに見積もって最軽量で四十キロと見なしますと、残りは百五十キロ。銅像一つで百五十キロもあるの? いやまあ、どんなに重たくてもいいんです、作り方次第でしょうから。でも、犯人はどうやってそんなに重たい像をエレベーターに運び込み、あとでまた運び出して元に戻したというのでしょう?
 あるいは、映画では説明を省いており、一体四十キロほどの像を四つ、エレベーターに出し入れしたということなのでしょうか。それでも大変そうではあります。犯人は細腕ですし、床に痕跡を付けずに行うのは無理な気がする……。

 もう一点、明智は早々に(犯行が起きるずっと前に)静原の犯意を看破しているにも関わらず、ゾンビ大量発生の窮地から彼女を救い、犯行の舞台になるであろう紫湛荘に逃がしてやっている。何らかの犯罪的行為が行われると予見していながら、その場所に犯人を放り込むとは、どういう名探偵なんだろう。明智自身も生き残って、犯行が始まる前に犯人を指摘するつもりだったのか? そんなことしてる場合じゃないだろうに。
 ちなみにコミカライズ作品では、明智は自身を犠牲にして女性を助けたシーンが描かれています。えらい違いだな~。

 他にも細々とした突っ込みどころはあると思います。ゾンビが現れたのに犯人冷静すぎる!とか、ゾンビの血が混じっただけでゾンビ化するかは不確定なのに実行するの?とか。
 でも、きらいじゃないです。極端な言い方をすれば、「人類滅亡が決まったのにそれでも恨みを晴らすために殺人をする」と。こういうのはありだと思っています。

 今回はこの辺りで。ではでは。

 蛇足です。
 ゾンビによるクローズドサークル形成というのは、『死の相続』(セオドア・ロスコー/横山啓明 訳 原書房ヴィンテージミステリシリーズ)が先行作品だと思い込んでいましたが、『死の相続』は閉鎖状況ができたあとゾンビが出て来るんでした。勘違いしてた。
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