第7話 巣ごもりだからミステリでも観よう

文字数 2,372文字

 今回は小ネタ集というか落ち穂拾いというか、ここ一ヶ月ほどの間にテレビで観た推理ドラマについて、ん?と引っ掛かった点――まだたいして考察していませんが疑問点を列挙し、軽く検討していこうと思います。


・ドラマ「探偵ガリレオ」(東野圭吾原作 フジテレビ系列)
 『聖女の救済』 ※ネタバレ注意
 原作小説は未読です。シリーズ作品はいくつか読んでいるのですが。
 先日、再放送されているのを観てふと浮かんだ疑問――と言ったら大げさになりますが、犯人の経験から来る心理状態では、あの遠大な計画を実行に移すことには相当なハードルがあるんじゃないかと思ったんです。
 “夫を一年後に自動的に殺害するべく、一年間、夫が死なないように努める”という計画は、犯人自身が頑張れば完遂できるものかどうか。確かに、夫の行動をコントロールしたり、殺害装置に誰も触れさせないようにすしたりするのは、犯人の執念でカバーできそうです。でも、犯人自身に降り懸かる不慮の事故・事件・災害の類は? ひょっとしたら一年の間に交通事故に遭って入院するかもしれない。大きな水害に遭って家が大きく浸水するかもしれない。まあ天変地異に巻き込まれる可能性を低く見積もるのはいいとしましょう。では、犯人自身が事故や事件に遭う可能性はどうか。自然災害と同じように低く見積もるのが普通かもしれません。
 けれども、犯人は以前、自転車のひき逃げに遭って、おなかの子を亡くしている。いくら注意していても避けられないことがあるのだと、身に染みているはず。そんな犯人が一年間、何のトラブルにも巻き込まれないでいけるという確信を抱けるものでしょうか?
 だからこのお話はおかしい、というのではなく、犯人が心理的なハードルを越えることができたと示唆する何らかのエピソードがあれば、もっとすんなり受け入れられただろうにと、惜しく思う次第です。



・ドラマ「明治開化 新十郎探偵帖」(坂口安吾原作 NHK-BSプレミアム)
 『終局の一手』 ※ネタバレ注意
 これまた原作の「石の下」そのものは未読です。同シリーズで読んで覚えているのは『赤罠』ぐらい。(^^;
 本ドラマはそれなりに楽しく視聴しているのですが、この回はいただけないと感じました。そのくだりを思い出しながら書いてみますと――警察の大警視が友人宅を訪ねて、囲碁で対局中に郷土料理の茶節を出される。二人が食した後、友人は口から血を垂らして苦しみ始め、やがて死んでしまう。捜査で毒殺と分かり、茶節の材料を入れた壺に毒が混ぜてあることも分かる。警官達は上司である大警視を扱いづらそうにしながらも取り調べる――こんな流れだったかと。もちろん大警視は犯人ではありません。
 おかしいのは、誰も大警視の身を案じていない(大警視自身までも)こと。同じ物を食べて相手が死んだのだから、検査結果が出ていなかろうがまずは「自分も毒を摂取してしまったのではないか」と心配するものでしょう。一般市民なら知り合いが目の前で死んだら気が動転してそこまで意識が向かない場合もあるかもしれませんが、大警視及び警官達がそれでは困ります。
 一歩譲って、上で指摘したようなシーンは省略されていたのだと解釈すれば、まあつながります。警官が大警視を取り調べるのは、同じ物を食べておきながら大警視の方は無事生きているから怪しい、と考えるのはさほど不自然ではありません。
 でもまだ別の難点が控えています。犯行方法に特に目を見張るようなトリックはなく、外部の者がこっそり壺に毒を入れたということでしたが、それなら何故、大警視はまったくの無事だったのでしょうか。もちろん、犯人は大警視が巻き添えで死のうがどうなろうが知ったことではないでしょうけど、ストーリー上、大警視が一毫も苦しまずにぴんぴんしている事実は“謎”として扱うべきであり、解決が欲しいところです。
 で、こんな筋書きの話を、本当に坂口安吾が書いたのだろうかと訝しく思いまして、ネットの青空文庫で「石の下」を読んでみたところ……まるで異なる物語で、ほっとしました。



・ドラマ「警視庁三係 吉敷竹史シリーズ3 北の夕鶴~2/3の殺人」(島田荘司原作 TBS系列)
 原作小説『北の夕鶴2/3の殺人』、これは読んでいます。素晴らしい恋愛&本格ミステリ。あ、ネタバレ注意でお願いします。ドラマ版はBS-TBSでの再放送(何度目だ?)を最近になってまた視聴しました。
 小説を読了後にちょっと気になっていたのが、この作品の犯人は、マンションでのあの大がかりなトリックの仕掛けをどうやって準備したのだろう?ということ。大きな音は出るだろうし、何度も同じようなことを繰り返す必要があるし、非常に目立ちそう。予めロープを張っておくって、いつの時点? 明るい内は着手できそうにないし、夜だと暗くて難度が高まりそうだし。作品の時代にドローンがあれば、だいぶ楽になりそうなんですが。いや、当時だって無線操縦のヘリコプターはあったんだから、そっちを使う方がよかったんじゃないかな~と。相当パワフルな機体でなければいけないでしょうけど。
 でもこの作品が凄いのは、そういった本来引っ掛かる点が他にいくつかあっても、ほとんど気にならない程の書きっぷり。読んでいる間はほんと、のめり込みました。
 あと、想像するに、もしもラジコンやドローンを使ったというのがトリックの答だったとしたら、本作の持つ艶が薄れるかもしれませんし、伏線でラジコンが出て来ただけで察しのいい読者は勘付いてしまう恐れもある。なのでやはり、従来の形がいいのでしょうという気持ちも強くあります。
 いや、島田荘司ならラジコンの影や飛ぶ音すらも、怪現象の一つとして詩的で美しい謎に組み入れてくる、かも。

 今回は以上のようなところで。それでは。
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