第18話 ドラマ「イップス」「約束 ~16年目の真実~ 」雑感

文字数 2,998文字

 小説に限らず、漫画や映画、ドラマといった物語の創作を志す人にとって、様々な事共に対する自身の感覚がどのくらい一般的なのかは、把握しておきたいものだと思うのですが如何でしょう?
 念のために注釈を入れておくと、「一般的な感覚の持ち主であれ!」と言っているのではないです。自身の感覚がどうであろうと関係ない。一般的(言い換えると“現代における多数派”)な感覚が何なのかを掴めるようにしておくのが大事なんじゃないかと。いわゆる“普通”が分かっていないと、“異常”を描くことは難しいでしょうから。
 何が一般的かを把握した上で、作者は己の感覚なり感性なりを存分に活かして、物語を綴るのが肝要……と、創作論めいた書き出しに読めたかもしれませんが、そうではないので安心?してください。

 四月に入って、いくつかの新規スタートドラマを観てみました。
 その内の一つ、フジテレビ系列で放送の「イップス」があります。バカリズム演じる刑事の森野と篠原涼子演じるミステリー作家の黒羽ミコによるバディ物の倒叙推理。森野刑事は警視庁捜査一課でかつて検挙率ナンバーワンを誇ったが、あることをきっかけに事件を解決できなくなっている。黒羽ミコはデビューから三作連続でヒットを飛ばすも五年前からまったく書けなくなっている。このイップスコンビという設定に惹かれて、視聴を決めたものです。

 重大なネタバレにならない範囲で大まかにストーリー展開を説明すると……まず、森野とミコの出会いから。森野はミコの作品のファンだが、五作目辺りからアンチコメントをネットに書くように。ミコは普段からその書き込みを気にしている。その後、二人はサウナで一緒になり、初対面にもかかわらず森野は遠慮のない感想をぶつける。それが例の書き込みとまったく同じだったので、アンチコメントの主だとばれる。普通ならバディになんてなりそうにない出会いだったけれども、サウナの水風呂で変死体が見付かり、状況が一変。自作のネタが欲しいミコは森野を使って捜査の情報を得ようとする。
 そんな二人がどうにか事件を解決したあと、ミコは犯人の将来を思いやって、弟で弁護士の慧を紹介する。「犯人に弟弁護士を紹介する」というくだりは、第二回以降でも基本フォーマットになりそうな雰囲気がなきにしもあらずでしたが、まだ分かりません。

 作品の評価はまだ先のこととして、初回を最後まで観て、ふと思い浮かんだ推理、いえ直感もしくは妄想があります。それは、
「ミコの弟、弁護士の黒羽慧は殺人犯なのでは?」
 というもの。
 何故そんな妄想を思い付いたか。
 初回のラストで、二つのシーンが交互に描かれました。
 一つは、ミコの仕事場を訪ねた慧が、依頼を引き受けたことを報告するシーン。慧は人権王子と呼ばれるほどの人権派弁護士で、評判がいいみたいです。
 もう一つは、森野刑事が自宅の本棚から黒羽ミコのデビュー作を取り出し、開くところ。中は書き込みがびっしりで、ファンの域を超えているような……。
 で、このシーン、主に後者のシーンから妄想ストーリーを組み立てました。

・黒羽ミコのデビュー作及びその後の二作のトリックは、弟の慧が示唆したものである。四作目以降はミコが単独で書き始めたため、テイストががらりと変わり人気急落。結果、書けなくなった。
・一方、慧が姉に提供したアイディアは、どれも実際の事件で用いられたトリック、それも慧自身が人を殺したときに使ったトリックだった。
・森野刑事は慧が起こした事件のいずれかもしくはすべての捜査に関わっており、どうしても解けず、事実上迷宮入りさせてしまった。それがきっかけで検挙率が急落した。
・森野はイップスに罹ったあと、黒羽ミコの作品をたまたま読み、そこに描かれたトリックが未解決事件に当てはめられるのではないかと感じる。が決定打がない。そこで黒羽ミコにかつてのベスセラー三作に匹敵する作品を新たに書かせれば、ボロが出るのではないかと考え、アンチコメントでミコを発憤させようと試みている。

 ――てな具合に。
 直感が当たっているかどうかはさておき、私、視聴者の何割かは似たような予想をしたに違いない、と思ったんです。それくらいあからさまな仄めかしに感じられたものだから。
 どのくらいの人が同様の予想をしたのか、ちょっと調べてみようとネット検索や旧Twitter検索をしてみましたが、放送終了から一日経つか経たないかぐらいの段階では、皆無に等しいように見えました。一つだけ、弁護士が怪しく見える的な書き込みがあった他は、見付けることができず。あと、ドラマの感想掲示板に少しだけ目を通して、やっと二つ目を発見。
 むむ、こんな少数意見だとは思わなかったです。それで自分の感覚にちょっと自信がなくなってきたため、こちらへ話の種がてらに書いてみた次第。
 とりあえず、外れていたら自作の捨てトリックとして使おうかしらん。



 ついでにもう一つ、今期スタートのドラマについて。
 日本テレビ系で放送の「約束 ~16年目の真実~ 」初回に、天草という三十四歳の男が登場し、個人タクシーを仕事にしています。
 個人タクシーになるのって結構大変だと聞いた覚えがあったので、気になりました。そこでネット検索で調べてみると、三十四歳でもなれなくはない。かなり計画的にことを進める必要はありそうですが、あり得ない話では決してない。
 と、ここまでならよかったのですが、ドラマの公式サイトを見ると、天草は大学卒業後プロのカメラマンを志し、海外を放浪していた時期もあった旨が記してありました。
 決め付けはよくないですけど、大学は四年制で、天草は飛び級をしていないものと仮定して論を進めますと、大卒の年に二十三歳になる天草は、そのままプロのカメラマンを目指し、海外を放浪していたこともあるというのだから、少なくともそれぞれ一年ぐらいは時間を掛けているのではないか。そうだとすれば、帰国した年に二十五歳に。
 将来、個人タクシーをやりたいのであれば、最低限、タクシー会社で十年の実務経験が(個人タクシーを開くのと同一営業区域内で)必要みたいですから、帰国してすぐさまタクシー会社に就職できたとしても、条件を満たす頃には三十五歳になっている……。計算が合いません。
 プロカメラマンを目指すのも海外を放浪するのも極短く切り上げたのだとすれば、もちろん計算上は矛盾しなくなります。しかしそれでも現実的には厳しいスケジュールに思えます。個人タクシー運転手になるための試験に合格する必要があるし、開業資金を貯めなくてはいけない。
 さらに細かいことを言うと、ドラマ公式サイトには、天草は「数年ほど前に故郷に戻ってきた」とあります。これだと、帰国は十年前だとしても、同一営業区域内で十年の実務経験を積めていない可能性すらありそう。※「故郷」という表現をどう捉えるかによる。
 私が引っ掛かりを覚えるのは、「天草は何でここまで必死になって個人タクシーを始めたかったのか。何か理由があるとして、それはドラマのストーリーと関係しているのか。関係ないのなら、制作サイドはどうしてこんな無理のある設定にしたのか」といった点になります。今のところ、はてなばかりで理解に苦しむとしか。
 今後、回を重ねることで疑問が解消されれば助かるのですが、果たして。

 それでは。
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