第5話 母の四十九日

文字数 835文字

 いろいろな思いを整理出来ないまま、母の四十九日を迎えました。

 当日は夫の運転で指定された2時間前に家を出た。自宅と実家の距離はおよそ70㎞。私がひとりで行く時は、必ず高速道路を使う。夫は余程の事でない限り一般道。だから余裕を持たせて、いつも2時間前に出る。文句は言わない。運転してくれるから多少の時間は目をつむる。

 予定よりも少し早く着き、母の介護部屋だった居間へ通された。すでにベッドは無く、狭い部屋いっぱいにソファーとテーブルが置かれていた。夫と弟は頭を下げた程度で無言。

「来てもらい、ありがとうございます」

弟はソファーに腰掛けた私に言った。絶縁の話を持ちかけた時から、私は弟に敬語を使って話すようにしていた。他人行儀に振る舞う事で、一線を画したかった。だから弟もそれに(なら)う言葉使いをするようになった。

 弟と別の家族として暮らすようになって30年以上経つ。肉親だが、お互い優先すべきは、他人である伴侶と築いた今の家族。時が経つほどに肉親は二の次になり、昔のような我儘(わがまま)を許せるような度量は小さくなった。時間の隔たりは、血縁の隔たり。

 夫がトイレに立った。弟と私の差し向かい。私が黙ったまま座っていると

「いつかは、こうなるんじゃないかと思っていた(絶縁される事)だからお姉さんの気持ちは分かります。申し訳ないと思っています。仕方ないとも思っています」

弟は私の意志が強い事も、そこへ行き着くまでの状況も納得していた。そこに弟嫁が深く関わっている為、敢えて嫁がいない時に私に謝罪した。そして最後に下の子の体調が自分の体調に良く似ているから、くれぐれも気をつけてやってほしいと気遣った。一瞬、私は自分の取った行動を揺るがされた気がした。でも、気遣いの言葉は残っても感情が後を引く事はなかったが。

 弟嫁がお茶を持ってきた。お互い無言。私は顔を合わせなかった。その後、僧侶が来て法要が始まり、墓に納骨するまで一言も話す事なく帰路に着いた。

 私は私なりに両親の供養をしていきます。
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