8)第4章 1

文字数 653文字

「夏原さんについては、誰かを憎むとか、そう言ったことが想像できません」

私が言うと、秋河係長は小さく答えた。
「緒野さんの言う通りだわ」

夏原主任は、私達のような事務しか出来ない女子社員からすると憧れの存在だ。
後輩に優しく、技術を持ってキチンと仕事をこなしている。
モテる噂も聞いているが、同性の目からみても文句の無いステキな女性だ。

そう言えば少し前に、田乃崎君の物件なのに何故か、夏原主任が南里課長に叱られていたことがあった。

あれは確か、七月の初めくらいだったか。

夏原主任を散々罵った後で、営業の奥山係長まで呼びつけて、更に説教が続けられていた。
南里課長に解放された後の二人は、身体が痩せて薄くなっているように見えた。

夏原さんが、誰かを憎むことは想像できないと、さっき言ったけど、人の心の中は分からない。

あんなに長時間説教されて、南里課長を憎む気持ちがあってもおかしくない。
南里課長は夏原さんに刺されたりしても、文句を言えないと思う。

だけど、襲われたのは南里課長ではない。
南里課長は工事課の人間だから。

だけど、そもそも何で田乃崎君の物件なのに、夏原さんがあれほど叱られていたんだろう?

ふと、柏居さんの言葉が脳裏に蘇った。
「雪下課長は、田乃崎君のミスを他の人に押し付けて、尻拭いさせてるんだよ」

もしかしたら、あれも田乃崎君の尻拭いだったのだろうか?

だとしたら、説教される原因を作ったのが田乃崎君で、押し付けたのは雪下課長ということになる。

夏原さんの憎しみの矛先が、その二人へ向かうという筋書きもあるのかもしれない。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み