#6 不死 (『君主と皇帝』エピローグ、『忘れてしまう少女と少年の。』番外)
文字数 1,762文字
「貴女は、死んだはずっーー!! 」
真夜中、病院の廊下、睨み付けてくる化物ーー母親は、母親らしい感情で少女を見据えていた。
「ーーうん。貴女も。」
息を引き取り、病院で看取られーーけれど、病院から消えた。遺体を探しても、見つからず、その内、怪談話の様に噂された。
『化けて出たぞ、お前の母親、ーー俺たちのーー母がだっ!! 』ーー怒りや嫌気を全て出した顔で、双子の少年は少女に吐き捨てた。
夜な夜な出没する怪異となった母ーー探しても、見つからなかった。少年の所には姿を現すのにーー……。
「貴女は私の母でした。記憶はありますね。」
「記憶はーーゔぅ、ぁあ゛ーー!! 逃げ、て……。」
母は、母らしくーー、化物と成り果てた自身に怒りを露わにしながら、そう呟く様に言った。
少女への最期の言葉。
けれど、少女は許さなかった。
「私の最期の言葉はそれで良いです。ーーだけど!! あの人たちには!! 」
姉や兄、弟たちには、別の言葉を、ーーと、生前敵う事のなかった母に向かった。
ーー人の殺し方を教えたのは、貴女だったーー人の活かし方も。
祖父と同じ、ーーゾンビやキョンシーみたいなものにされ、化物となった母。
病院から消えたという事まで同じにされ、父を襲い、致命症を負わせ、貴女は心を更におかしくした。
ーーその姿の全てを視てきた少女。
自分が終わらせる事を、覚悟して生きてきた。
死してなお、動くキョンシーとして。
弟を守る使者として。
「主 は、弟ーー!! 貴女は、キョンシーーー!? ーー今、キョンシー、ーー私と、同じ、なのねーー……。」
「怯むなよ? 言葉が、母さん、だからって!! 」
側まで来ている弟は、そう言いながら、自分も戦うつもりで構えていた。
「怯まない、ーー貴方が私の主 だから。」
雨に打たれていた身体は病院で死体解剖を受けるはずだった。
母を弄った研究者、その研究者が少女の遺体も隠し持っていた。
死ぬ前、少女は自身の死を予測していた。
だから、弟に紙切れを渡していた。弟が持てば、強力なそれは札にーー呪符に変わった。
少女の手にある間は、ただの紙だった。
弟は陰陽師の力が強く、神気の強い姉とは対照的だった。陰陽はぴったり、同じだけの力を持つと言われた。プラスの方向とマイナスの方向、その零 から起点し、両側に進める力は、同じだと。
そして、その力のバランスがズレた時、周囲に及ぼすズレが、双子の二人ーーそして家族に降り掛かるだろうと。
これは古からの因果だ、と……。
「姉さんっ!! 」
「ーー大丈夫、誰かーー、護ってくれた……。」
守護符が発動し、バリアが張られた様に、此方の身体への攻撃は何かに守られて弾かれた。これは多分、病院の外からーー、援護してくれている。
「護って? ! ーー、声掛けて来たんだーー助けてくれてる! 」
母は強かった。生きて化物であったなら、最強の殺人鬼になっていただろうーー父よりも、人を殺す事を躊躇わず、殺陣や暗殺の全てを知るのではないかと思われた。母は戦争の道具にされていた事がある……。
けれど、無闇に人の命を奪う人ではなかった。身勝手に命を殺す人ではなかった。ーーこんな風に人を襲う人でもなかった。
生かし、活かす方が多かったと信じている。父に出会い、救われたのだとーー変える事の出来ない自分と因果を変えられたのだと。明けることのない夜が明ける様だったとーー……。
「うん。勝たないと。勝てなかった人に! 」
その声には生気が込もっていた。
生ける屍ーーキョンシーに、命が。
「勝て!! 姉さん! 母さんに勝って、一緒に帰ろう!! 」
「ーーーーあの子、の、ーーもう一人の姉さんの真似をしても、駄目ね。」
母の声ーー化物なのかは分からない。化物の感情と母の感情が入り混じっている。その入り混じった声は何方にも届き、一瞬動きを止めさせた。しかし、それは攻撃を止めた母も同じだった。
「? 真似ってーー? 」
「貴方は言語が似てるだけ。私たちに。兄にも姉にも私にもーー皆んなの言葉を覚えて使ってしまっているから。」
「! ーーそうか……。だから皆んなーー……。母さんみたいな事言うんだな。姉さんみたいな顔するーー表情をしたりーー……。」
「うん。ーーでも、今は考えないで欲しいな、ーー」
「ーーうん。ーーごめん、集中する! あっ!! 」
攻撃が目の前から振り下ろされるーー!
真夜中、病院の廊下、睨み付けてくる化物ーー母親は、母親らしい感情で少女を見据えていた。
「ーーうん。貴女も。」
息を引き取り、病院で看取られーーけれど、病院から消えた。遺体を探しても、見つからず、その内、怪談話の様に噂された。
『化けて出たぞ、お前の母親、ーー俺たちのーー母がだっ!! 』ーー怒りや嫌気を全て出した顔で、双子の少年は少女に吐き捨てた。
夜な夜な出没する怪異となった母ーー探しても、見つからなかった。少年の所には姿を現すのにーー……。
「貴女は私の母でした。記憶はありますね。」
「記憶はーーゔぅ、ぁあ゛ーー!! 逃げ、て……。」
母は、母らしくーー、化物と成り果てた自身に怒りを露わにしながら、そう呟く様に言った。
少女への最期の言葉。
けれど、少女は許さなかった。
「私の最期の言葉はそれで良いです。ーーだけど!! あの人たちには!! 」
姉や兄、弟たちには、別の言葉を、ーーと、生前敵う事のなかった母に向かった。
ーー人の殺し方を教えたのは、貴女だったーー人の活かし方も。
祖父と同じ、ーーゾンビやキョンシーみたいなものにされ、化物となった母。
病院から消えたという事まで同じにされ、父を襲い、致命症を負わせ、貴女は心を更におかしくした。
ーーその姿の全てを視てきた少女。
自分が終わらせる事を、覚悟して生きてきた。
死してなお、動くキョンシーとして。
弟を守る使者として。
「
「怯むなよ? 言葉が、母さん、だからって!! 」
側まで来ている弟は、そう言いながら、自分も戦うつもりで構えていた。
「怯まない、ーー貴方が私の
雨に打たれていた身体は病院で死体解剖を受けるはずだった。
母を弄った研究者、その研究者が少女の遺体も隠し持っていた。
死ぬ前、少女は自身の死を予測していた。
だから、弟に紙切れを渡していた。弟が持てば、強力なそれは札にーー呪符に変わった。
少女の手にある間は、ただの紙だった。
弟は陰陽師の力が強く、神気の強い姉とは対照的だった。陰陽はぴったり、同じだけの力を持つと言われた。プラスの方向とマイナスの方向、その
そして、その力のバランスがズレた時、周囲に及ぼすズレが、双子の二人ーーそして家族に降り掛かるだろうと。
これは古からの因果だ、と……。
「姉さんっ!! 」
「ーー大丈夫、誰かーー、護ってくれた……。」
守護符が発動し、バリアが張られた様に、此方の身体への攻撃は何かに守られて弾かれた。これは多分、病院の外からーー、援護してくれている。
「護って? ! ーー、声掛けて来たんだーー助けてくれてる! 」
母は強かった。生きて化物であったなら、最強の殺人鬼になっていただろうーー父よりも、人を殺す事を躊躇わず、殺陣や暗殺の全てを知るのではないかと思われた。母は戦争の道具にされていた事がある……。
けれど、無闇に人の命を奪う人ではなかった。身勝手に命を殺す人ではなかった。ーーこんな風に人を襲う人でもなかった。
生かし、活かす方が多かったと信じている。父に出会い、救われたのだとーー変える事の出来ない自分と因果を変えられたのだと。明けることのない夜が明ける様だったとーー……。
「うん。勝たないと。勝てなかった人に! 」
その声には生気が込もっていた。
生ける屍ーーキョンシーに、命が。
「勝て!! 姉さん! 母さんに勝って、一緒に帰ろう!! 」
「ーーーーあの子、の、ーーもう一人の姉さんの真似をしても、駄目ね。」
母の声ーー化物なのかは分からない。化物の感情と母の感情が入り混じっている。その入り混じった声は何方にも届き、一瞬動きを止めさせた。しかし、それは攻撃を止めた母も同じだった。
「? 真似ってーー? 」
「貴方は言語が似てるだけ。私たちに。兄にも姉にも私にもーー皆んなの言葉を覚えて使ってしまっているから。」
「! ーーそうか……。だから皆んなーー……。母さんみたいな事言うんだな。姉さんみたいな顔するーー表情をしたりーー……。」
「うん。ーーでも、今は考えないで欲しいな、ーー」
「ーーうん。ーーごめん、集中する! あっ!! 」
攻撃が目の前から振り下ろされるーー!