#11 決別 (『閻魔と明華と…。』番外)

文字数 3,884文字

「あの日、あの談話室で別れて直ぐまた話し合ったじゃん? 」

「うん。」

「その時にさ、『ああ、もう無理かなぁ』って思った。」

「ん? 」

「繋ぎ留めるのも、止めるのも、ーー俺が相棒(コンビ)でいるのも……。」

「ーー……。」

あの日、談話室で話して、解散した後、直ぐに自室ーー相棒と同室の寮部屋に、相棒が帰って来ていた。

詰将棋みたいな言葉の後に、『少し考えさせて』『また直ぐに戻るから』と、もう元には戻らない様な言葉を発していた相棒ーー、そして、直後に眠気に襲われて、眠りに着いた。こっちの話だ。

あの時、眠気がーー深い眠りに落とされる様な事が無ければ、声を掛けてまた戻れていたかもしれなかった。

戻れずに、居なくなる事になった。

自分は解離性健忘症を患っている。そして、周囲にそれを伝え、知ってもらっていた。

『記憶力が良いから、健忘が気にならないというか、健忘も同年代の子達と同じくらい』だと、相棒が言っていた。ーー後で気づいたのだが、相棒が物忘れをするタイプである事と、勘違いを意外としている事。そしてそれはお互い様なのだと思われていた事を懺悔された。お互い様ではなく、一方的だったと。自身はそうだったけれど、此方は違ったと。

そのズレが、何かをズラしていって、今、決壊してしまったのだと……。

俯瞰する様に見ていた。相棒だけではなく、全てを。
自閉する様に。態と隔て、一線を越えなかった。
それはTPOで、モラルで、ひととなりなのだろうと周囲から認識された。

ーー実はそれとは真逆で。

一線を引かず、それがあっても越えてしまいがちで、隔てのない自分の感情やひととなりを無くし、隠していた。

冷静と平常心。ーーそれは血筋の為。

そして、自分と周囲を必要以上に重ねない為。

関わりを薄く、存在希薄にする事で、気付かせない。『お前の存在が希薄なのは事実だけど、芯の強さが漏れているから、俺じゃなくても気づくと思うーー前のお前と違うところ。』

健忘で、大事な何かを忘れて変わった自分に相棒が言った言葉は、けれど、自分の覚えている相棒の言葉だった。

芯の強さは初めから、4人にーーそれぞれに言われた。それを『我が儘な部分だ』とも、『らしいなと思う所』とも、ーーそして、『そうじゃなきゃいけない』のだとも言われた。

ーー“リーダーシップのないリーダーは嫌われるよ”

『リーダーシップを覚えなさい』、と、大先輩である、相棒が現れる前までの、以前の自分の相棒に注意された。

また時間を経て再会した時、言葉は変わって『君はリーダーシップを心得ているね。そうでなければ注意しているところだった。』なんて言われたけれど。

誰もいないのに、リーダーなんて……。

リーダーシップなんて持っていても、もう集まる様な、ーー自分が先頭に立ち歩く様な、そんな事は無いのだ。

家族が居ても、それは前に立ち守る様な関係性で、そしてそこには勿論、自分の前に立ち、自分をも守ってくれる存在が居る。親や姉達が。

“なら、それは発揮されないと言うのかい? ”

「勿体無いじゃないか。折角磨いたスキルだと言うのに……。」

ぶつぶつと横で声に出して呟かれたーー小言を言われた。

以前の相棒は相変わらずだ。

「仕方が無いんだろ? 」

「ふぅ、今回もか。」

末の兄弟たちが口々に嘆息した。

こっちが嘆息したいところだ。

「こっちががっかりしたよ。君たちは末っ子兄弟だから彼に先導を受けるだろうけれど、僕らはそうもいかないんだ。ーー並び立ちたい者がそう願って椅子や舞台を用意してもね? そこに来て貰えないのなら、それは不必要で不要の物になってしまうんだよ。」

「小言が始まったぁ〜〜〜〜! 」

「最初から小言だったぞ、その人の話は。」

「全くだよ。最初の一文を小言としない人懐こさは誰に似たんだろうね? おちびさん。」

「ちびって言うな〜〜〜〜! ちびだけどぉ〜〜〜! 」

「ちびだな。」

「いや、お前もな。」

自分からみたら小さい、末の上の弟の方に、つい言葉を放ってしまった。話がこっちに来て騒がしくなる。ーー寝よう。

「おやすみ、ーー疲れた。」

脳が。

「何もしてないのに『疲れた』だぜ! 」

「しているだろ。不登校でも、立派に家事とーー俺たちの世話をだな……。」

ちらちらとこちらを盗み見る様にしている奴らの視線が痛い……。

不登校、元い、学校に通った事がないのだ。肉身では。霊体や夢や通信制なんかではあるのだが……。在籍校には修了証を取りに行った時くらいで、ーーいや、確か入学する時にも手続きで顔を見せる為に行かざるを得なかった。ーーまぁ、代わりの身代わりみたいな人物を置かれていたのだけれど……。

やむを得ない事情と肉体の症状ーー病状と、早くからの就職で、学校に行けなかった。『義務教育をすっ飛ばしての就職だ、良かったな。』だなんて声を掛けられたりした。

義務教育もその後の教育もーー教室で勉強をしたかった自分は、その願いが叶わず今を迎えてしまった。

自分の保護者に理由を問えば、曰く、“その願いが叶えば死ぬから”だそうだ。自分はだけではなく、保護者の方迄もが。

“家に居るなら、僕が君を育てよう。”なんて、生来からの指導気質が災いーー幸いして、以前の相棒が自分を幼少から育て、教鞭を嬉々と振るった。打つ方ではなく、指導指南する方のきちんとした教学の鞭をだ。

この以前の相棒が相棒だったのは、幼少からという事でも分かる通り、それ以前、前世にまで遡る。

前世の相棒は姿を消しがちだったが、必ず戻って来て、傍にいる様な奴だった。そして、人に物を教えたり、伝えたりするのが得意だった。『得意だったのは君さ。ーー忘れないで欲しいな……。』と憤慨され、相棒解消となったのだが……。解消した時、自分は転生後で、一歳にも満たなかったとされている。一歳前後の事だから、自分には曖昧な話だった。

更に先代の相棒は、『相棒ではなく、お前の保護者か先輩だったけれど、引退だな。眠い。』と言って眠ってばかりいた。眠いのは電池切れなだけだ、と周りに囃されていた。

そしてそれを耳にした指導気質の相棒が、『それだよ。僕はそれに成る。』と言って、保護者で先輩ーーそして今の周囲より先に先輩でいたから、大先輩となった。

「大先輩とちびーズ、の、視線がーー煩い……。」

「『煩い』って……。君ねーー……。眠いなら仕方が無いか。僕もひと眠りしよう。」

得意の教鞭も、眠気に萎えた様だった。

ーーこの気質を災いと言い掛けたのは、祖父母の期待を打ち砕いたからである。

自分の幼少期、早くに娘を亡くしている祖父母は、自身たちの娘が若くに残していった孫を大層ーー大分可愛がるつもりだった。

しかし、その前に大先輩が教鞭を振るい、その教鞭は孫を大人の様に話す子供にしてしまった。まだものを知らない、わかっていない、あどけない幼い子供を可愛い可愛いと育てるつもりだった祖父母である。ーーそれは祖父母にとってトラウマとも言える衝撃だったと後に二人が語る。

家系的なものでもあるのだ。先祖は代々、一歳には物を喋り、二歳には歩き始め、三歳には読み書きをしている。なので、三歳になる頃にはフィアンセなんかが居たりした。二歳までに見合いを済ませていたりする。ーー自分は0歳の時、産まれた時にそれがあったらしいのだが、ーーそう、その為に、不登校である。

『やめろ!! 0歳であんなよく分からない者と婚約者になるな!! 』父が叫んでから、その叫びが相手側に伝わり、戦争勃発とまではいかないにしろ、政治に関係や影響を与え、火の無い戦争の様なものをつくり出し、存在を隠され庇護され、秘密裏に育てられる様になると、小学生問題が初まった。

義務教育にどうやって出席させないか、出席せずに修了し、卒業させるにはどうしたら良いか、であった。

そして父は学校から帰って来た。『意外と余裕だった! お前の前の父親ーー祖父ちゃん達は、強かったぞ! 』なんて、喜びに満たされた満足し切った顔で言って来た。

当の自分は、『え〜〜〜ん、学校に行きたかった〜〜〜! 』である。その時、幼馴染みも、『一緒に学校に行って欲しかった〜〜〜〜!! 』と嘆いた。

そしてボイコットするがの如く、幼馴染みと二人で学校に登校しようとするのだが、これを大の大人達が阻むのである。普通は逆だ。

しかし、なんとその大人達はプロのSP集団と警察の特殊部隊だった。

『いやぁ、君を学校に登校させたら、戦争が起こるって聞かされて。』と、自分を捕まえミッションを成功させた和やかな雰囲気と達成感に浸る現場で、プロの大人の一人が緩んだ表情でこれまた和やかな声で言った。

『ごり押しじゃねぇかお前の親共!! 』、『どっちもか知らんけども!! クズか!? 』ーーと、罵る様な声も上がった。

幼馴染みはその日、“卒業までに必ず、登校させるーー!! ”と、胸中で誓ったとか。

「これは、親に卒業して頂くしかないですねぇ〜……。」

親戚のーー母と近しい友人(自称)の男性に見えるけれど心と魂が女性の人が呟いた。誰もが男らしくてスマートな人物と称するのに。通称、完璧で残念な人。父がこの人を完璧に残念な人にしたいと一時期宣っていた。後に知ったが曽祖父(曽祖母? )らしい。若く見えるのに。ーーそう言えば母も祖母も産んだのが早かったとか。年齢が。だからだろうか?

「何を? 何処を? 」

「え? 何か何処か卒業してなかったあの人たちーー!? 」

内心驚いて困惑したが、次のその人の言葉で誰もが言葉を失った。

「親を卒業させるんですよ。」

目まで笑っているのに、感情が笑っていないらしかった。ーー後述談である。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み