#3 跳躍 (『過去の未来のifの僕』過去の未来、そしてまた過去へ①)

文字数 2,462文字

「未来でいなくなる、僕たちをーー」

「過去から救い出して」

「ーーそうだよ、まだ手はある! 」

「タイムワープかーー、タイムリープだ! 」

「跳ぶぞ! 」

「いち、」

「にのーー! 」

「参!! 」

ーー……。タイムワープか、タイムリープか……。

あの場にいた全員、ここへ跳べたらしい。

「ーー参ったぜ……。この過去、昔の俺たちのーー」

「うん、現代だよ。」

「懐かしの現代だーー! 」

現代と呼ばれていた、青春時代ーー学生時代の僕らの時代……。

僕らは、ーー僕たちを助けるために、現代に戻って来た。




ーー未来ーー自分たちのいる、生きていた時間軸で、死の狭間に囚われていた。“役者”と呼ばれる全員が、その狭間に集まるまでずっと……。

最初に囚われた人物は、長かっただろうその待ち時間を、『早かったよ』と言った。『思ったよりはだけど……。』と。最初に囚われたとは、つまり、一番最初に死んだ人物。この“役者”と呼ばれ集められた者達の中では。

「ーーまたーー? 」

瞬きをした。知った空間だった。

少女は虚ではない光を宿した瞳で、白んでいた視界に映った、白さのある広い空間を見た。

「『また』って? ーー知ってるの? 話しなさい。ーーなんて、法廷での癖。嫌に思わないで? って、言わなくてもわかるか。」

「うん。大丈夫。」

少女の顔見知りが一番最初に声を掛けてくれたお陰で、少女は気を張らずにーー気を引き締めずに済んだ。

緊張の糸を張り詰め、また人をーー、、してーーしまうところだったかもしれない。

「この子は機嫌で解るから……。」

死ぬ少し前まで、保護者だった青年ーー当時は少年くらいだったその人物が小さく話した。

「ーー本当に似てるみたい。その子と私。」

目を瞑り、少女の顔見知りの女性も小さく呟いた。

「? ーーこの子じゃなくて、似てるって話したのはーーあ、貴女だとこの子なの? 」

「ーーーーそうみたい? 」

目を開いて少女を見ながら言う女性の言葉は、首を傾げている様だった。

「ーー〜〜? 俺にぁ、わからねぇ、な。」

首を傾げた言葉の先、一対で言う夫婦の様な相手、男性が聞かれてもないように感じられた言葉に答えた。

「にゃあ? 猫になってる? 」

女性は『貴方に聞いていない』とは言わずに聞いた。

「ならねぇ! なるのはそいつらだろ? 」

「なるけど? 」

「なってたな……。猫に……。猫生だった……。」

少女と少年ーー今は青年の彼が、げんなりとしながらぶつぶつと言った。

「楽しかったにゃ。ーーでも、何でまた? 」

死ぬ度に来る事のある、死んだ時にしか来ない、気安さのあるこの場所に、また呼ばれた。召喚というより、召還なのだろうとすら思う。還る場所になりつつある人間は、少女以外にもいる様で、静かに時を待っている様子だった。

「神よ!! この狭間にいるーーおわせられる神よ!! 」

退屈だったのか、急に大袈裟な声を上げた男性。

「あらせられる? かな? 」

おわせられるでも合っているだろうか? と、その場の人間が一瞬同じ疑問を頭に浮かべた。

「おあらせられる神様〜、説明プリ〜ズ! 」

痺れが切れた様に、子供っぽい声が聞こえた。見た目は子供っぽくもない。

「はぁ、駄目だ……。死んだ時の衝撃が……。」

少女のよく知る、よく知り合っている人物ーー精霊が溜め息を吐いて言った。

「まだある? 手当しようか? 」

「はい。ーーお願いします。心の手当を……。」

「精神だった! 精神科さ〜ん、いらっしゃっいませんか〜? 」

「居るよ。ーー僕の相棒がーー……。来てしまったんだね……。出来れば君には死んで欲しくなかったよ……。」

精霊は少女を見て、後悔の色を隠さずに表情に出しながら声を掛け、また溜め息を吐きそうにしていた。

「だろうね。でも、役を揃えてるみたいだから、ならずっと追い回されてたって事でしょ? 」

「逃れられなかったーー!! 運命にーー抗えなかった!! 」

泣き崩れるその人物は、精神も崩壊しているようだった……。

「泣かないで、お兄さん……。」

『お兄さん』と言って介抱しようとしている方が、お兄さんーー歳上に見えた。精神ではなく、見た目が。



ーーーー私たちは、死ぬ度にーーこの世界と時間の狭間で、次に行く場所や選択を問われる。

問われるけれど、答えた事柄に保証がある訳でも、自分の思う通りになる訳でも無いーー……。

それは、この狭間を創っているーー狭間を治めている神が決めることだから。

そしてその神すら予想も予測も出来ない事態やちょっかいが入るから……。

「(次のタイムリープで、平成が終わる。お前は、終わったらーー)」

「そこ! こそこそしない! 」

「ーーっ、……。(終わったら、俺の所に来い、ーーいつもみたいな、寄り道は無しでだ。)」

「コソコソ話、終わった? 」

背の低い、小さな身体の男女どちらかまだ見た目で判断出来ないくらいの幼い子が、姿に似合わないしっかりとした口調で聞いた。

「僕もこそこそ話して良いですか? 」

柔らかい印象の大人が、やはり柔らかい声で聞く。

「そこここ、ーー良いよ。俺はね。」

誰ともなく、細身の青年が答えた。

「時間、は、くれるのよね……。ここの神様? 」

法廷を統べていた女性が、少女の知る学生の頃と変わらない様子で話した。

「神が決まらないんだ。少しーーあと少し待ってくれ。」

人型のーー人間と変わらない姿の神界の神使か神候補が少女たちに伝えた。

「何? 神様決まってないの?? 」

若い顔の社会人が呟く様に声を上げた。

「ーーなぁんだ、前回と同じか。」

両腕を後ろに組み、張っていたらしい気を緩める学生。

「んじゃ寝てよ。くー、くー……。ハッ!! 秒速で未来を見た!! 話したい未来が!! 次に来るっ!! 」

狭間の世界の壁に寄り掛かり、座って寛いでいたまた別の学生が目を瞑り頭を下に落とし始めたと思ったら、その頭が直ぐに上げられた。

「何それ? 」

「ーー気になる……。」

騒つく狭間の世界の中ーー少年から成長し、青年になったはずの彼の言葉が頭に響いていた少女のままの姿のその少女は、ぼんやりとその騒つきを耳に通していた……。
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