第1話 (兼家様ったら)

文字数 621文字

 兼家様は、私を愛してくださっている。
 かわいい太郎君(たろうぎみ )も、おなかのややも。
 それにしても。
 太郎君(たろうぎみ )の時は、お生まれになるまで、あんなに日もおかず訪れになって、私を気遣ってくださったのに。
 この度は、お文だけの日が重なり、新しく受領(ずりょう )の中の姫と三日の餅を召し上がり、所顕し《 ところあらわし》をされ婚礼が成立されたとか。
 噂によると、中の君は教養が高く、たいそうな美人で、素晴らしい歌詠みだとか。
世の殿方は、姫君が身ごもると浮気をなさるという話だったけど、兼家様に限ってそのようなことはあるまいと思っていたのに。

 私が裳着( もぎ)の儀の際、陰陽師に占わせたところ、
「姫君は、稀有な運命をお持ちです。位人臣を極める男君と結ばれ、お子達も、それぞれ最高の位におつきになり、姫君は国母となり、天皇をお産みあそばされるでしょう。」
などと、たいそうなことを言っていましたが、そんなこと、軽々しく口にする陰陽師など信じることはできません。

 兼家様は、右大臣様の三番目のお子様。見目麗しく、豪胆で、たいそうご立派な殿方ですが、兄上様方も、噂に高いご立派な方々です。兼家様が私にお文をくださって、我が家の婿君となられたのは、私には過ぎたご縁、陰陽師の申したことは誠ではあるまいかと家の者は喜んでおりましたが。兼家様が位人臣を極められるとは、思えませんし。

 このように、新しい姫君を迎えられるようでは、私が幸せな一生を送ることができるか心細くて気が休まることがありません。
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登場人物紹介

 主要人物

時姫             道長の母 兼家の正妻 子供は5人(五番目が藤原道長)。

受領の中の君 道長の父兼家の2番目の妻 子供は1人(藤原の道綱)。  百人一首に選ばれている有

       名な歌人 日本三大美人にも選ばれている。

兼家     道長の父 藤原北家、右大臣藤原師輔の三男。後に摂政、関白、太政大臣になる。

 主要人物以外の男君

師輔   道長の祖父 兼家の父 右大臣

伊尹   道長の伯父 兼家の長兄 

兼通   道長の伯父 兼家の次兄

道長   兼家と時姫の3男 他の人が生んだのを入れると5男  

村上天皇 伊尹・兼道・兼家の義兄(異腹の姉の夫)

冷泉天皇 村上天皇と安子の皇子

 主要人物以外の女君

安子   道長の父の姉 師輔の娘 伊尹・兼道・兼家の異腹の姉 村上天皇の妻(女御)

超子   道長の姉 兼家と時姫の娘 冷泉天皇の妻(女御) 三条天皇の母

栓子   道長の姉 兼家と時姫の娘 円融天皇の妻(女御) 一条天皇の母


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