第2話 (道綱の母ったら)
文字数 739文字
無事、一の姫がお生まれになった。玉のように美しい赤子で、乳母の乳を元気にお飲みになる。兼家様は、この姫君はきっと女御 になるよ、とたいそうなお喜びようだ。
新しい受領 の中の姫も身ごもったと聞く。恨む気持ちもあるが、この世ではままあること。
そう思っていたというのに、またも、世の殿方の常、姫君が身ごもると浮気をなさる。この度は、町の小路の女のもとに通い始めたそうだ。
こともあろうに、新しい受領 の中の姫からお文が届いた。
美しい文字で、
「そこにさへ かるといふなる まこもぐさ いかなるさわに ねをとどむらむ」
(そちらにさえ、夜枯れになっていらっしゃるそうですね。いったいどこに通っていらっしゃるのでしょうか)
とある。
「枯れる」「まこもくさ(イネ科の多年草、食用になる)」「沢」「根」の縁語使って、兼家の夜枯れをともに嘆こうという歌だ。私から男君を奪っておいて、よくも今更。
しかも、兼家様は、こちらには文だけなのに、あちらには時折訪ねていると聞く。
この間、兼家様があちらにお訪ねになった折、なんと戸を閉ざしたまま追い返したと噂になった。しかも、その時のお歌が、素晴らしいと評判になっているそうだ。
「なげきつつ ひとりぬるよの あくるまは いかにひさしき ものとかはしる」
(あなたのお訪ねがないのを嘆きながら一人で眠る夜が、どんなに長いかおわかりになって?)
夜が明けるのと、戸が開くのとを掛けた掛詞だ。まったく、己の才知をひけらかすたしなみのない歌ではないか。
あきれながらも、仕方なく返歌をしたためた。ふん、何をおっしゃるの。
「まこもくさ かるとはよどの さわなれや ねをとどむてふ さわはそことか」
(夜枯れているのは、私のところだけですわ。そちらにいらっしゃるのでしょう。)
新しい
そう思っていたというのに、またも、世の殿方の常、姫君が身ごもると浮気をなさる。この度は、町の小路の女のもとに通い始めたそうだ。
こともあろうに、新しい
美しい文字で、
「そこにさへ かるといふなる まこもぐさ いかなるさわに ねをとどむらむ」
(そちらにさえ、夜枯れになっていらっしゃるそうですね。いったいどこに通っていらっしゃるのでしょうか)
とある。
「枯れる」「まこもくさ(イネ科の多年草、食用になる)」「沢」「根」の縁語使って、兼家の夜枯れをともに嘆こうという歌だ。私から男君を奪っておいて、よくも今更。
しかも、兼家様は、こちらには文だけなのに、あちらには時折訪ねていると聞く。
この間、兼家様があちらにお訪ねになった折、なんと戸を閉ざしたまま追い返したと噂になった。しかも、その時のお歌が、素晴らしいと評判になっているそうだ。
「なげきつつ ひとりぬるよの あくるまは いかにひさしき ものとかはしる」
(あなたのお訪ねがないのを嘆きながら一人で眠る夜が、どんなに長いかおわかりになって?)
夜が明けるのと、戸が開くのとを掛けた掛詞だ。まったく、己の才知をひけらかすたしなみのない歌ではないか。
あきれながらも、仕方なく返歌をしたためた。ふん、何をおっしゃるの。
「まこもくさ かるとはよどの さわなれや ねをとどむてふ さわはそことか」
(夜枯れているのは、私のところだけですわ。そちらにいらっしゃるのでしょう。)