第2話 (道綱の母ったら)

文字数 739文字

 無事、一の姫がお生まれになった。玉のように美しい赤子で、乳母の乳を元気にお飲みになる。兼家様は、この姫君はきっと女御(にょうご)になるよ、とたいそうなお喜びようだ。
新しい受領(ずりょう )の中の姫も身ごもったと聞く。恨む気持ちもあるが、この世ではままあること。
そう思っていたというのに、またも、世の殿方の常、姫君が身ごもると浮気をなさる。この度は、町の小路の女のもとに通い始めたそうだ。

こともあろうに、新しい受領(ずりょう )の中の姫からお文が届いた。
美しい文字で、
「そこにさへ かるといふなる まこもぐさ いかなるさわに ねをとどむらむ」
(そちらにさえ、夜枯れになっていらっしゃるそうですね。いったいどこに通っていらっしゃるのでしょうか)
とある。
 「枯れる」「まこもくさ(イネ科の多年草、食用になる)」「沢」「根」の縁語使って、兼家の夜枯れをともに嘆こうという歌だ。私から男君を奪っておいて、よくも今更。
 しかも、兼家様は、こちらには文だけなのに、あちらには時折訪ねていると聞く。

 この間、兼家様があちらにお訪ねになった折、なんと戸を閉ざしたまま追い返したと噂になった。しかも、その時のお歌が、素晴らしいと評判になっているそうだ。

 「なげきつつ ひとりぬるよの あくるまは いかにひさしき ものとかはしる」
(あなたのお訪ねがないのを嘆きながら一人で眠る夜が、どんなに長いかおわかりになって?)
 夜が明けるのと、戸が開くのとを掛けた掛詞だ。まったく、己の才知をひけらかすたしなみのない歌ではないか。

 あきれながらも、仕方なく返歌をしたためた。ふん、何をおっしゃるの。
「まこもくさ かるとはよどの さわなれや ねをとどむてふ さわはそことか」
(夜枯れているのは、私のところだけですわ。そちらにいらっしゃるのでしょう。)
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登場人物紹介

 主要人物

時姫             道長の母 兼家の正妻 子供は5人(五番目が藤原道長)。

受領の中の君 道長の父兼家の2番目の妻 子供は1人(藤原の道綱)。  百人一首に選ばれている有

       名な歌人 日本三大美人にも選ばれている。

兼家     道長の父 藤原北家、右大臣藤原師輔の三男。後に摂政、関白、太政大臣になる。

 主要人物以外の男君

師輔   道長の祖父 兼家の父 右大臣

伊尹   道長の伯父 兼家の長兄 

兼通   道長の伯父 兼家の次兄

道長   兼家と時姫の3男 他の人が生んだのを入れると5男  

村上天皇 伊尹・兼道・兼家の義兄(異腹の姉の夫)

冷泉天皇 村上天皇と安子の皇子

 主要人物以外の女君

安子   道長の父の姉 師輔の娘 伊尹・兼道・兼家の異腹の姉 村上天皇の妻(女御)

超子   道長の姉 兼家と時姫の娘 冷泉天皇の妻(女御) 三条天皇の母

栓子   道長の姉 兼家と時姫の娘 円融天皇の妻(女御) 一条天皇の母


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