第7話 (源高明殿のこと)

文字数 621文字

 安和二年、大変なことが起こった。
 
 何がどうなったのか、よくわからないが、都はこのうわさで持ち切りだ。
私が聞き及んだところによると、源満仲という者が中務(なかつかさ )少輔(しょうすけ)(たちばな )のなにがしという者と左兵衛(さひょうえ )大尉(たいい )源のなにがしという者が謀反(むほん )を企んでいるということを密告したそうだ。こともあろうに、東宮であられる安子様の三の宮様を廃しようというたくらみだったのだと。

 安子様には、いずれも優れた御子様があまたいらっしゃる。
 一宮が、先年お亡くなりになった村上帝のお子様で、今の帝(冷泉天皇)。
     女御は、私の一の姫である。
 二宮が、為平親王様。妃は高明殿の娘。お子もいらっしゃる。
 三宮が、守平親王様。今の東宮の宮。まだ幼い。
 姫宮もたくさんいらっしゃる。

帝にはお子がいらっしゃらないので、弟宮が東宮に立たれた。

 このできごとに、高明殿がかかわっていらっしゃるとは思えないが、東宮が為平親王様にかわれば、一番有利になられるのは高明殿で。
 左大臣まで上り詰めていらっしゃった高明殿は、出家して難を逃れようとなさったが、大宰府(だざいふ)の職を命じられ無理やり大宰府へと旅だって行かれた。
 高明殿の、あまりの悲運に涙を流さない者はない。

 ああ お気の毒なこと、と嘆く者もあれば、まあ これで藤原の天下は安泰ですね、とけしからぬことを申す者もあり。兼家様は高明殿と親しくしておられましたが、大丈夫ですか、と心配する者もあり。
 
 私も、お気の毒やら、心配やらで気の休まることがない。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

 主要人物

時姫             道長の母 兼家の正妻 子供は5人(五番目が藤原道長)。

受領の中の君 道長の父兼家の2番目の妻 子供は1人(藤原の道綱)。  百人一首に選ばれている有

       名な歌人 日本三大美人にも選ばれている。

兼家     道長の父 藤原北家、右大臣藤原師輔の三男。後に摂政、関白、太政大臣になる。

 主要人物以外の男君

師輔   道長の祖父 兼家の父 右大臣

伊尹   道長の伯父 兼家の長兄 

兼通   道長の伯父 兼家の次兄

道長   兼家と時姫の3男 他の人が生んだのを入れると5男  

村上天皇 伊尹・兼道・兼家の義兄(異腹の姉の夫)

冷泉天皇 村上天皇と安子の皇子

 主要人物以外の女君

安子   道長の父の姉 師輔の娘 伊尹・兼道・兼家の異腹の姉 村上天皇の妻(女御)

超子   道長の姉 兼家と時姫の娘 冷泉天皇の妻(女御) 三条天皇の母

栓子   道長の姉 兼家と時姫の娘 円融天皇の妻(女御) 一条天皇の母


ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み