第6話 (道長・詮子のこと)

文字数 634文字

一の姫が入内なさる一年ほど前のころだったか。

 御年三つになられた末の三郎(さぶろうぎみ )君(のちの道長)のやんちゃぶりがすさまじかった。貴重品の上等な紙をいつの間にか手にされびりびりにしてしまわれ、二の姫の大事な貝合わせの貝を投げ散らかしただけでなくかじってバラバラにされる。お(いさ )めしても、まだ言葉もわかられないのか、にこにこと笑っていらっしゃる。もう、どうして差し上げればよいのか、途方に暮れていた。
 今はもっとすさまじくなっていらっしゃるが。
 その時、うとうとしていたら、急に兼家様そっくりの大臣(おとど )になって現れ、満足げに微笑んで歌を詠まれた。
「このよをば わがよとぞおもふ もちづきの かけたることも なしとおもえば」 (娘三方が(きさき )になられるとはのう。わたしは満月が全く欠けたところがないのと同じくらい満足である)
 三郎君(さぶろうぎみ )の娘ということは、私の孫娘であろうか。いくら夢でも、そんなことが起こるはずもない。この夢のことは、誰にも話さず黙っったままでいる。

バラバラになってしまった貝合わせを見て、二の姫が泣き出してしまわれた。このままでは遊べない。そのうえ、お気に入りの姫君が描かれた貝が、かじられてしまって合わせられなくなったそうだ。どなたかにお願いして、新しい貝合わせを(ゆず )っていただきましょうね。とお(なぐさ )めする。
 さて、どなたに。兼家様の姉君である安子様が譲り渡しても良い品をお持ちで贈ってくださった。

  このように、お子達とのにぎやかで、困りながらも楽しい日々が過ぎていく。

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登場人物紹介

 主要人物

時姫             道長の母 兼家の正妻 子供は5人(五番目が藤原道長)。

受領の中の君 道長の父兼家の2番目の妻 子供は1人(藤原の道綱)。  百人一首に選ばれている有

       名な歌人 日本三大美人にも選ばれている。

兼家     道長の父 藤原北家、右大臣藤原師輔の三男。後に摂政、関白、太政大臣になる。

 主要人物以外の男君

師輔   道長の祖父 兼家の父 右大臣

伊尹   道長の伯父 兼家の長兄 

兼通   道長の伯父 兼家の次兄

道長   兼家と時姫の3男 他の人が生んだのを入れると5男  

村上天皇 伊尹・兼道・兼家の義兄(異腹の姉の夫)

冷泉天皇 村上天皇と安子の皇子

 主要人物以外の女君

安子   道長の父の姉 師輔の娘 伊尹・兼道・兼家の異腹の姉 村上天皇の妻(女御)

超子   道長の姉 兼家と時姫の娘 冷泉天皇の妻(女御) 三条天皇の母

栓子   道長の姉 兼家と時姫の娘 円融天皇の妻(女御) 一条天皇の母


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