第2話(2)南西の森

文字数 1,906文字

「……って、勢いよく走り出してみたはいいけれどよ……」

 タイヘイが周囲を見回す。似たような森が続いている。

「南西の森……本当にこっちで良いのか?」

 タイヘイは地図を広げて確認する。地図には『この辺!』とだけ書かれている。タイヘイはため息をついて地図を閉じる。

「はあ……あの爺さんも結構アバウトな性格なんだな……まあ、ろくに確認もしないで出てきた俺も俺だけどよ……うん⁉ なんだ⁉」

 なにか物音がした為、タイヘイは周囲の様子を伺う。

「…………」

「風で木の葉が揺れたのか……って、そんなわけねえだろう!」

 タイヘイが拾った石を投げる。

「痛てっ!」

 人の姿をした翼を生やした者が姿を現す。タイヘイが驚く。

「!」

「ちっ、なかなか鋭いじゃねえか……」

「て、適当に投げてみたら当たった……」

「適当かよ!」

「なんだお前……『鳥人』って奴か?」

「違えよ!」

「違うのかよ! ごめん!」

「あ、ああ、分かれば良いんだよ……」

 タイヘイが素直に謝ってきた為、翼を生やした者は面食らう。

「じゃあ……」

「ちょ、待てよ!」

 自然にその場を立ち去ろうとするタイヘイを、翼を生やした者が呼び止める。

「なんだよ?」

「なんだよじゃねえ! 俺らの縄張りに入り込んできてタダで帰れると思うなよ⁉」

「お前らの縄張り?」

「そうだ!」

「ここはお前ら鳥人の縄張りか?」

「だから違えって言ってんだろう!」

「? でも、鳥みたいな翼生やしてんじゃねえか」

「顔や体は人間だろうが!」

「ああ、まあ、それはそうだな……」

「なんだよ、その反応は?」

「正直、いまいちよく分かってねえんだ……」

 タイヘイが首を傾げる。翼を生やした者が不思議そうに見つめる。

「お前、知らねえのか? 俺らは人と獣のハーフ、『人獣』だよ」

「人獣……」

「厳密に言えば、人鳥か」

「ふ~ん、亜人連合とやらとは違うのか?」

「あんな野蛮な奴らと一緒にするな!」

「そうか、悪かった、すまん」

「わ、分かれば良いんだよ……」

「それじゃあ……」

「いや、だから待てよ!」

「……なんだよ?」

 タイヘイがウンザリしたような顔になる。

「俺らの縄張りに入ってきて、タダで済むと思うなよって言ってんだよ!」

「ああん?」

「石をぶつけられた仕返しだ! 痛めつけてやるよ!」

「どこが野蛮な奴らと違うんだか……?」

 タイヘイが首を傾げる。

「そらっ!」

「む!」

 翼を生やした者がその翼を思い切りはためかせ、砂や小石、折れた木の枝をタイヘイに向かって飛ばす。タイヘイはそれを防ぐのに精一杯になる。

「ははっ、手も足も出ねえな!」

「……そんなもんか?」

「あ?」

「お前の巻き起こす風はそんなもんかって聞いているんだよ」

「じょ、上等じゃねえか! 体ごと吹き飛ばしてやるよ!」

「おっと!」

 翼を生やした者がさらに強く翼をはためかせる。タイヘイの体が浮き上がり、大木に向かって飛んでいく。

「ははっ! ぶつかって終わりだ!」

「……そうはいかねえよ!」

 タイヘイが大木を蹴り飛ばし、その反動で翼を生やした者との距離を一瞬で詰める。

「なっ⁉」

「おらっ!」

「がはっ⁉」

 タイヘイの頭突きを喰らい、翼を生やした者がその場に崩れ落ちる。

「ふう……」

「サ、サブローがやられた⁉」

「ん?」

 翼を生やした者があらたに姿を現す。

「て、てめえ! 許さねえぞ! よくも弟を!」

「弟って……」

「俺はそのサブローの兄貴、ジローだ!」

「そうか。許さねえって、どうするんだい?」

「こうするんだよ!」

「うおっ!」

 ジローがタイヘイに接近し、顔面を連続で突き出してくる。

「そらっ! そらっ!」

「な、なんだ、顔を近づけてきやがって⁉」

「鳥がくちばしで相手をつつくあれだよ! 俺にはくちばしはねえが、あの速さなら真似出来るってわけだ! そらっ! 喰らえ!」

「く、唇突き出してきて、不気味なんだ……よ!」

「ぐはっ⁉」

 タイヘイの頭突きカウンターが綺麗に決まり、ジローがその場に崩れ落ちる。

「な、なんなんだよ……」

「ジ、ジローまで⁉ よくも弟だちを……て、てめえ、許さん!」

「どわっ⁉」

 あらたに現れた翼を生やした者が空中からタイヘイを蹴りつける。

「サ、サブロージローときたら……今度はイチローか⁉」

「シローだ!」

「なんでだよ!」

「家庭の事情だ!」

「ちっ!」

 タイヘイがジャンプし、シローと同じ高さまで飛び上がる。シローが驚く。

「な、なんだ、そのジャンプ力は⁉」

「うらっ!」

「ごはっ!」

 タイヘイの頭突きを喰らい、シローは地面に落下する。

「……片付いたか?」

「三兄弟を簡単に退けるとは……なかなかやるじゃないの」

「⁉」

 タイヘイが声のした方に目を向けると、木の枝に逆さまにぶら下がった女の姿があった。
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