第7話(4)ちょいと提案

文字数 1,895文字

「繰り返します! 本国でクーデター発生です!」

「そ、そんな……」

「カンナ姫!」

「……」

「カンナ!」

「!」

 ヤヨイの言葉にカンナがハッとなる。

「……お気を確かに」

「……都はどうなっていますか?」

 カンナが使者に尋ねる。

「現在、混乱の真っ只中です」

「お父様……陛下は?」

「所在不明です……」

「安否は分からないのですね?」

「残念ながら……」

「クーデターの首謀者は?」

「それについても情報が錯綜しており……」

「それらを確認するのも貴様の仕事ではないのか⁉」

「も、申し訳ありません!」

 シモツキの叱責に使者は慌てて頭を下げる。

「シモツキ、無茶を言うものではありません」

「し、しかし……」

「よく報せてくれました。疲れたでしょう、休憩しなさい」

「は、はい……」

 使者は静かに下がる。

「姫様、いかがなさいますか?」

 腕を組むカンナにキサラギが尋ねる。カンナが間髪入れず答える。

「……こういう事態になったからには一旦国へ戻りましょう」

「お、お待ち下さい!」

「どうしました? シモツキ?」

「このまま戻るのは危険かと思われます!」

「しかし、この地に留まっているわけにもいかなくなりました」

「そ、それはそうですが……」

 カンナは視線をシモツキからキサラギに戻す。

「キサラギ、先行して都周辺の様子を探ってもらえますか?」

「分かりました」

 キサラギが頷く。カンナが顎に手を当てながら呟く。

「クーデターの首謀者には大体ではありますが見当はついています……その者が考えそうな手を読めば裏をかくことが出来ます……」

「そ、それでは……」

「こういう時にこそ冷静さが問われます。落ち着いて行動しましょう」

「か、かしこまりました!」

 シモツキが頭を下げる。カンナが告げる。

「皆、撤退の準備を……」

「カンナ姫……」

「なんですか、ヤヨイ?」

「妖どもが追撃してくる可能性があります」

「! ふむ、それは確かに……」

 カンナが頷く。シモツキがヤヨイに問う。

「なんだと、奴らと手を組んで事を起こしたというのか?」

「アタシに聞かれても知らないよ」

 ヤヨイが両手を大げさに広げる。

「あまり適当なことを言うな」

「なんでも最悪の可能性を考慮に入れるべきだ、撤退中に後背を突かれたらあっという間にジエンドさ」

「むう……」

「……というわけでカンナ姫。このアタシの軍勢が殿を務めさせていただきます」

「! そうですね、お願いしますか……」

「……ちょっと待った」

 キサラギが口を開く。

「なんだい、キサラギ?」

「姫様の警護を薄くするのは危険だ」

「なんだキサラギ、我だけでは役不足だというのか?」

「それも当然ある」

「なっ⁉」

 キサラギの言葉にシモツキが顔を赤くする。それを無視して、ヤヨイが答える。

「今言ったように撤退戦では殿というのも重要になってくる。それが務まる者はこの中ではアタシしかいないだろう」

「聞き捨てならんな」

「ちょっと黙ってな」

「なにっ⁉」

 ヤヨイの言葉にシモツキがムッとする。

「アンタはカンナ姫にぴったりとくっついて、姫のことを死んでも守れ。どうせそういう方が得意だろう?」

「む、そ、それは確かに……」

 シモツキが腕を組んで頷く。ヤヨイがキサラギに告げる。

「追撃がないようだったらアタシもすぐにカンナ姫に追いつくさ」

「まあ、それがベストか……」

「ベターだが、ベストじゃねえな」

「‼」

 立ち上がったタイヘイが口を開く。キサラギがため息交じりで呟く。

「そういえば、貴様にとどめを刺さねばならなかったな……」

「ちょっと待った」

 タイヘイが右手を前に突き出す。シモツキが首を傾げる。

「なんだ、命乞いか?」

「違えよ、ちょいと提案だ」

「提案?」

「……俺たちと手を組もうぜ」

「⁉」

「殿は俺らが引き受ける。お前らは後ろを気にすることなく、素早く国へと戻れる……どうだ、悪い話じゃないだろう?」

「調子に乗るなよ、何故貴様ら如きと手を組まなければならないのだ!」

「手を組むというのが気に入らないなら同盟ってのはどうだい?」

「もっと気に入らん! 対等ぶるな!」

「国を取り戻したいんだろう? 利用出来るものはなんでも利用した方が良いと思うぜ」

「なにを生意気な!」

「シモツキ……!」

「は、ははっ!」

 カンナが声を上げる。シモツキが頭を下げる。

「……確かに常識破りな貴方という存在は利用価値がありそうですね……」

「だろ?」

「貴方の望みは?」

「言っただろ? 俺らの国を認めて欲しいんだよ」

「私がそれを反故にしたらどうします?」

「残念ながらまたぶつかるだけだな」

 タイヘイが肩をすくめる。

「ふっ……良いでしょう。手を貸して頂きます」

 カンナが手を差し出し、タイヘイと握手をかわす。
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