ファンシーショップふぶき・5

文字数 4,228文字

葛城企画はイベント企画会社です。


大手デパートや企業、公的機関やらその他中小・個人の提示されるイベント事を具体的に立案・見積り・実施します。


なんだかんだ言って大口の顧客が居るもんで、不況で仕事が減ったと言う割に、会社はそれなりに回っていますね。


我が社のキャッチコピー

【起きたまま見る夢】

ですからね。


ジョン課長に「誰が考えたのですか?」と尋ねたら、「うん、俺の知り合いが有名キャッチコピー師の乗ってた車にオカマ掘ったヤツの知り合いのいつも行く床屋のせがれにそっくりでね、ほんと、笑っちゃうよな~あっはっはー!」


だ そうな。


ええ、『質問には明確な回答』みたいな事をいつも言ってる割りに、何の回答にもなっていませんね。


それ以来ジョン課長は朝のお茶で腹を下してトイレにこもる時間が飛躍的に延びました。


勿論、今のお茶汲みは私がしております。


下剤とバブ(森林の香り)を入れております。

そうそう、電話番から始まった私の社会人人生ですが、思ったよりも簡単で、順調に勤め人を精一杯やらせて頂いております。


まあ、小難しい事はもっと上の役職名が付いた幹部が決めておりますので、私達は至ってシンプルな悪事紛いな企画・発案していますよ。


入社して半年、年の瀬も迫って来ました。最近は私も企画の段階で会議にちょっとだけ出してもらっています。


外回りするにも基本知識が乏しいので、企画会議なるものに出ると、このプランの長所・短所が良く分かってクライアント様に説明もしやすくていいですね。

「ちょっとちょっと相沢君!会議中に誰に向かって話してんの⁉︎」
「あ、すみません、半年の出来事をダイジェスト的に纏めた粗筋みたいな事をですね…」
「粗筋⁉︎なんの粗筋⁉︎てか君の出したこの立案書、頑張ってるのは認めるけどね、これじゃダメだろ!」
「何か問題ありましたでしょうか?前回『ジョン課長の毎朝のお茶にボツリヌス菌を入れる案』は惜しくも却下されてしまったので、今回はもっと簡単にですね…」
「そりゃ却下するよね?誰が自分の殺人予告笑って許諾するんだね?警察に任せてもいい企画だよね?いや、それよりこの『子供達のクリスマス意識調査を実施して、子供向けイベントを自社でやる』ってのはシーズン的にもなかなか良いと思ったんだけどさ。」
「ありがとうございます!是非やらせて下さい!2000クソガキ程度はボッロボロのケッチョンケチョンにしてやる自信ありますから!」
「お…おぅ…いやいやいや!違う!なんで子供とケンカすんだよ。それから君、これの決行予定地!も一回良く見ろや!」
【次スレ立てた奴が責任持て】
「君、有名ネット掲示板の住民だろ!?それしか伝わってこねーよ!何だ?もやし買い占めるってか?台風来たらコロッケってか?」
「いえ、ジョン氏なんか古い。」
「『氏』──────っ‼︎」
「課長、ちょっといいですか。」
「なんだね曽我部チーフ。」
「確かに相沢さんの企画書は荒削りな部分は多々ありますし、データの不足も目立ちます。しかしこの項目の中の『サンタさんを信じる子供が現代にどれ位居るのか調べ、二次特需を狙った子供向けクリスマスイベントに活かす』と言う調査なら、今後のイベント企画にも役立ちますし、何よりコストパフォーマンスも良く、仕事を覚えていくのにも効果的だと思います。」
「んん、それがどうしたの?あのね、この10年毎年世界が滅びる滅びる言われて来てね、毎年あったのかどうかも分からない危機を地球さんはどっかで勝手に回避してるの。今更赤い服来た髭モジャのオッサンが実在するかしないかなんかで近頃の子供は感心持たないよ?金勘定しかしないからね最近のガキは。足し算引き算は間違えるけどお札の額だけは紙面の雰囲気ですぐ読み解く。せいぜい『お父さんお母さんが可哀想だから騙されてやってる』程度の答案が関の山だよ。」
「ええ、調査価値が其れ程高いか?と言われればあまり高くないとは思います。しかし、だからこそ相沢さんの第一段企画としては手頃なんじゃないでしょうか?基本的に動くのは相沢さん本人だけで済みますし、経費もかかりませんよね?課長のおっしゃる調査結果以外にも違う答えがあれば、それはそれでラッキーですし。マーケティングの基本は時代によって同じ調査を繰り返す事にあると思いますし、結果を活かすも殺すも彼女の腕次第です。やはり実戦に勝る経験はありませんし、やらせてあげてはいかがでしょうか?」
「ええ~そうかなぁ~、うーん、曽我部チーフが言うならきっとそうなんだろうけど~…相沢君に任せて大丈夫かなぁ〜…どうするの、君?」
「私は預けて頂けるのなら全力でやらせて頂くだけです!」
「預かるて…君が銀行だったら俺は絶対金預けないからね?うっかり預けちゃったらすぐ【課長の金預かったから安価で何かする】みたいな事するだろ!?【課長の金でマカオでビル買うたった】とかになるんだろ!?絶対やだよ!不安しかないよ!飲み込め無いよ!」
「そんな事しませんよ…ジョン課長は私に対する偏見がひどいですね…」
「カチョウ、チョットイイカ?」
「マイケル。お前それタメ口って言って日本じゃ目上に使うのは失礼な。俺上司、君部下。ユー アンダースタン?」
「クタバレゴザイマス。」
「わざとか?わざとだろ?謝罪の意は?どこの国のビジネスシーンで『くたばれございます』なんて攻撃的且つ狡猾的な煽りを使う分け?聞かせて欲しいよ。君の母国は映画館で人の前を横切るのに『くたばれ』と言うのかね?そうなのかね?」
「課長。」
「お前だけはこのタイミングで手挙げちゃダメだろ…何だよ小林…」
「これ課長のカードなんすけど、限度額越えてるんで使え無いんすよ。早く使えるようにしてくんないっすかね?」
「通報しました(ニッコリ)。いや~どうも最近覚えの無い請求書が次々届くわけだ。そうだよね、よりによって小林が持ってるんだもん、そりゃそうなるわ。もうね、お前は網走の刑務所から生涯出ないでいただきたいね。これは俺の為じゃなく世の中の為ね。」
「後、課長の奥さんちょっと優しくしたら毎日電話して来て迷惑なんすよね、ぶっ細工な面して。カード使えないから現金吸い上げてやろうと近寄ったらこれっすよ。もうあんまり金も無くなってきたみたいだし、どうにかしてくんねーすか?」
「みんな会議続けてて(ニッコリ)。俺は今から小林の身体の突起物と言う突起物を片っ端からカッターで切り落とす業務に着くからね(ニッコリ)。もう知らんよ。何年食らおうがこいつだけは生かしておく事はできないよ?ちょっとこいよお前、お前はホント期待を裏切らないな。」
「課長、ちょっと落ち着きましょう。小林も悪ふざけが過ぎるぞ。」
「カチョウ、ドンマイ(笑)」
「ドンマイ⁉︎笑う場面じゃねんだよ‼︎お前知ってんだぞ⁉︎外人キャラしてる割りに普段ペラペラ流暢な日本語使ってんの⁉︎こないだ携帯で『割り下は醤油と味醂と酒。ザラメを入れるとコクが出るよ。』って言ってたの聞いたんだからな⁉︎すき焼きの作り方教える方になってる位ネイティブな日本人だよ!」
「喋れと言われたらこの様に違和感無く日本語を話す事もできますが、設定キャラクターが破綻してしまいますので敢えて片言訛りで話しております。何か問題でも?」
「出来てる─────‼︎面倒くせ───‼︎こいつ超面倒くせ────‼︎てか小林どこ行った!事の真偽を問わず小林だけはもう許さんよ⁉︎ドサクサに紛れて話し流してやらんよ⁉︎」
「マンボウ見に行くって海遊館行きました。」
「明日から小林は消息不明になるからね。俺、帰りにチェーンソー買って帰る予定だから。明日俺が返り血で真っ赤で、小林が出社して来なくてもその時はそこに触れないでね。」
「あの、一旦話しを戻しましょう…」
「うん、そうだね曽我部チーフ。お前程の安定感は見たこと無いよ。口開いて唯一安心出来るヤツだよね。頼むからお前以外のヤツは喋らないで欲しい位だ。」
「課長がどうも相沢さんに不信感を持っているようなので、ここは一つ提案が。」
「言いなさい、言いなさい。もう君が言うなら二つ返事で快諾できるわ。我が社の唯一の常識だわ。」
「いっそ課長と相沢さんが組むって言うのはどうですかね?」
「却下。はい次~『マイケルにハチミツを塗ってカブト虫集める』って企画出したヤツ~。精神科は午後診4時半からだからすぐ行く様に~。」
「いえ、私はジョン課長がついて下さったら安心出来ます!よろしくお願いいたします!」
私の初仕事になる可能性!ジョンに安心感なんて、2時間振り続けたコーラを渡される位微塵もありませんが、ここは食らい付いていきます。
「却下の意味を知らないのかね?やだよ、絶対良くない事に巻き込まれるよ。相沢君は存在自体が禍々しいから触っちゃダメ。そんな感じだもの。」
「大丈夫です!私を信じて下さい!」
「俺がもし毒盛られてさ、瀕死だとするじゃん?そこに解毒剤らしき物を持った君と、解毒剤らしき物を持ったチンパンジー雌8歳のナンシーちゃんが居たとするじゃん?どちらか一方からしか解毒剤貰え無くて、尚且つ片方は偽物と言う場面ね。どっちも『私を信じて!』って言うワケよ。俺ね、ナンシーちゃん選ぶよ?一片の迷い無くナンシーちゃん選ぶ。ナンシーちゃんしか信じない。」
「お願いします!是非私にもチャンスを!」
「ええ~、ダリぃよお~。俺はデスクから1ミリとて動きたく無いよ~。ナンシーと行けよ〜。」
曽我部チーフがフォローを入れる。
「課長、下半期の業績の悪化を受けて、クリスマスから年末にかけての個人業績は、専務の評価に直結していると言う情報を小耳に挟みました。」
「まず該当する年齢対象者が比較的多い地域のリスト作って。すぐにだ。それから調査開始のタイミングはクリスマス前一週間がいい。必要な根回しがいる場合は開始日前4日までには確立しておきたい。後は子供達の懐疑心を解く為にもシーズンに見合った格好をしよう。謳い文句と衣装はなるべくシンプルにいく。企画の立案者は俺で、相沢君は同行と言う形で進めるが問題無いね?みんなもなるべく専務が近くに居そうな時は『課長仕事頑張ってる』みたいな事、大き目な声で言うように。以上だ。何か質問があれば受け付ける。」
(おぉ…『専務の犬』っぷりが炸裂されていらっしゃる…)
こうして私の記念すべき第一段企画は、ジョン課長と二人で行うことに相成りました。
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登場人物紹介

相沢ふぶき。30歳。

ネット中毒で他人とのコミュニケーションに難あり。

藤屋京衛門。通称ジョン(蔑称)。

葛城企画企画マーケティング部課長。

人間のクズ臭立ち込める専務の犬。

小林。ジョン課長に嫌がらせするのが生き甲斐。

曽我部チーフ。葛城企画マーケティング部の唯一の良識人。

山路嘉人。孤児院の少年。両親は他界、難病の妹が居る。

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