ファンシーショップふぶき・7
文字数 2,973文字
「ふーん。まああんまり僕には関係無いよ。サンタって金持ちのトコしか行か無いみたいだしね。僕のトコには来た事無いから、善意のサンタなんて居ないと思ってる。」
「ううん。別に。じゃあお姉ちゃんも頑張ってね。」
予想以上に現実的な意見。
きっと私達には見えないところで沢山苦労してるんだろうな…同世代のヌクヌクゆとり育ちより考え方がやたら大人。
その一方で、やっぱりちょっと子供っぽさを出して欲しいな…と、勝手なエゴを抱いてしまいます。
「相沢君。もうそろそろ良いんでないかい?もう十分だろ?調査も俺の人権の蹂躙も。さっきからね、俺何もして無いよ?空気だよ?俺、必要かね?ここまで人間の尊厳を剥奪された格好させられてる俺を必要としない調査なら、続きは君一人でやりなさいよ。」
正直、ジョンは只の晒し者でも構いません。なんならこの時間の地下鉄御堂筋線に放り込んでやってもいいのですが、娘さんが不憫なので止めておきましょう。
ジョン課長を無視しつつ、通りがかった少年キッズに話しかけます。子供相手とは言え、今日ずっと他人に話しかけ、少し自信が付いて来た私は、いつもより大胆になってたんだと思います。
「おいおい相沢君。少年も非協力的なんだから放っときゃいいんだよ。ガキの容態なんざ知った事っちゃねーよ。為にならん話し集める位なら俺の帰宅時間にもうちょっと気を配れ。ケーキ屋閉まるまでにケーキ買っとかないと、今年もケーキ買い忘れたら女房子供からリンチされるわ。」
んんっ…今日初めて希望的観測意見が出ましたよ。居て欲しいって事は、居ないって分かってるって事ですものね?この歳で達観しちゃったんでしょうか?何やら深い悩みがある様ですね…
「貴重な意見ありがとうね。それでさ、お姉ちゃん今日色々な君と同じ位の子見てきたけど、君は何か凄く悩んでる感じがするの。調査に協力してくれたお礼になるか分からないけど、良かったら話し聞く位は出来るよ?君、ずっと他人に言わない悩みとかありそうだもの。」
「おいおい、深入りするなって。相手が子供だろうが図々し過ぎるぞ。人間なんてな、老いも若きも触れられたく無い秘密なんてごまんと抱えて生きてんだ。君さ、そのごまんの秘密を全て背負い込む覚悟もないくせに興味本位で簡単に人の悩みなんて聞くな。どっちも不幸にしかならん。」
そう言うとジョン課長はタバコに火をつけ、もう沈みそうな夕日を眺めました。
まあ一理ある。
ジョンに正論言われる程腹立たしい事はない。
少年は俯く。
私も地面に視線を落とすしかない。
ジョンは変わらず煙をふかしている。
少しの間の後、ふいに少年が呟いた。
ここでは何だ。と言う事で、施設の方に事情をお話しして、施設内のお部屋で少年の悩みを聞く事となりました。
〜☆〜
少年は
少年は嬉しそうに、けれど何とも言えない悲しそうな顔で笑顔を見せました。
言いにくそうに少年は続けます。
想像以上に出だしからへビーな話しですね…
「車の事故だったんだ。妹の病気で入院の手続きをしに行く途中だったんだけど、その病気の事で毎日寝て無かったみたいでね…居眠りなのか運転ミスなのか、反対側の車線に飛び出して他の車にぶつかって…僕が次にお父さんお母さんを見たのはお葬式の時だった。」
ジョン課長は、禁煙だと言われているのにも構わずタバコに火をつけ、パイプ椅子に踏ん反り返りながら、興味無さげにしております。
「お父さんお母さんが居なくなって、最初は親戚の叔父さんが僕達の面倒見てくれる筈だった。だからお父さんの保険金は未成年者後見人?って言うのか、叔父さんに渡す事になったみたい…けど、事故を受けた方の人が何処かの会社の偉い人だったみたいでね。高い車の修理費とか、むち打ちになった治療費とか、事故のせいで受けていた仕事が駄目になったからって損害賠償請求とか…弁護士さん連れて来て叔父さんに一方的に要求して来たんだ…叔父さんが悪いとは思ってないよ?でも叔父さんだって出来れば厄介な事には関わりたく無かったのが本音だと思う。気が付いたら叔父さんとは連絡が着かなくなって、お父さんの保険金もほとんど無くなってたって調べてくれた施設の人が言ってた…ちょっとだけあった残りのお金も妹の入院費でどんどん無くなっていくし…このままじゃ病院にも居れなくなる…もうね、どうしていいのか分からない…サンタさんが居るなら…お金なんていらないから…せめて妹の病気、治して欲しい…」
今まで枷を掛けていた少年の心のダムは抑えられなくなり、決壊し、正に号泣。
私はどうしたらいいか分からなくて、泣いている少年と無関心なままのジョン課長とを交互に見、アタフタするばかり。