ファンシーショップふぶき・8

文字数 2,308文字

「ごめん…ごめんね…辛かったね…」
「うううっ…うううっ…」
「課長…私、どうすれば…」
「………」
「…課長…」
「…ふう。」
ジョン課長はフィルターギリギリまでタバコの煙を吸い込むと、ため息とも取れる様に大きく白い煙を吐き出しました。
「相沢君さ、人の忠告聞かないとこう言う目に合うんだよ。結局受け止め切れないで人に丸投げかね?甘い。甘いよ。一晩でカブト虫6匹は取れる位甘い。」
重苦しい雰囲気を、何事も無い様飄々とジョン課長は続ける。
「『私情は捨てる』って言ったよね?君、スパイ紛いに任務を遂行するとか言ってたじゃん?間者が何言ってんの?そこで『親の死体売って金作ろうぜ!』とか言ってトドメ刺せる位図太くないと、来年のクリスマスはドラム缶の焚き火で炙った軍手しゃぶってるIN西成かも知れないんだぜ?だいたい君のは情にもろいとかじゃなくただの偽善だからな。偽善でやるなら他当たれよ。んで失業して目も当てられない位荒んだ心になって、貪欲で冷酷になればいい。だが俺まで巻き込まないでくれないか?君に付き合ってこの歳でリストラなんかされたら女房子供に何て言えばいいのさ?首括る以外道がないわ。」
「課長はこの少年を一欠片も不憫に思わないのですか⁉︎これじゃあ少年はあんまりじゃないですか‼︎」
私も感情的になっていて、涙混じりに声を荒げてしまいました。
「弱肉強食の世界で、弱者が強者に淘汰されるのは自然の摂理だろうが?人権団体の思想なんて現実の世界じゃ通用しねーんだよ。なら君や君の偽善に賛同する人間が、財産や内蔵も余すことなく売り払ってこのガキに施してやればいい。俺はごめんだ。何の見返りもない見ず知らずのガキによ、苦労の末自分で築いてきた幸せを分け与えてやるなんて聖者の真似事出来るかね?ほとんどの人間は出来ねーぜ?」
「それでも!…それでも…慈愛と言うのは…理屈では無いと思います…ううっ…」
「泣いて泣いてNight。おう、少年もだけどよ。君らの涙にどれ程の価値があるんだよ?2秒泣く度に銀行残高が800円増えるってんなら泣け。延々と泣け。もう鳴け。でも何にもならんだろ?『悲劇を背負った人間の涙』も『あくびして出た涙』も、等しく排泄物で、等しく無価値。そんな余分な水分使う暇あるならせめて琵琶湖にでも流して来い。」
「私は…確かに不用意かも知れません…軽はずみかも知れません…ですが…やっぱり縁で関わりを持った人間の不幸を見過ごして…自分だけぬくぬく生きて行く事は出来ません…」
「…はあ。君さ、この仕事向いて無いよ。軽率な自覚があるなら次からは俺の意見はちゃんと聞け。そう言うトコ厳し目に行くからな?」
そう言うとジョン課長はまたタバコを咥え、少年の方を向いて火をつける。
「いいか、少年。俺ら個人で何とかなる援助じゃない事位分かるよな?治療費・維持費、膨大な金が動く。そうなれば会社巻き込む位せんにゃならん。ただ会社は組織だ。利益も無いものを遊びや慈善事業感覚で簡単に大金叩く義理もつもりも無い。」
「…ぐすん…うん。どうにかして欲しいって正直思うけど…おじさんやお姉ちゃんには関係無い話しだから…無理はモノは仕方ないよね…」
「難病支援募金イベントを企画して、ここでやる。」
「えっ…?」
「か…課長…?」
「その為には少年にもそれなりのリスクを負って貰う事になるが、お前に覚悟はあるか?」
「う…うん…うん!僕、何でもする!どんな事だってやれる!だから、だからお願い!妹を助けて!」
「何でもか?あんまり過大な安請け合いは感心せんがな。まあいいや。取り敢えずお前がやる事書いてやるから紙とペン持って来い。あんま時間が無い。俺らは会社帰って計画練るから、今日のトコはそれで帰るぜ?」
「うん!ありがとうおじさん!ありがとう‼︎」

〜☆〜


孤児院を出て、私とジョン課長はその足で会社に向かいます。辺りはクリスマス一色。


ジョン課長がまさかあんな事言いだすとは思ってもいなかったので、私は未だにビックリしたままです。

「それにしても課長。ちょっと見直しました。なんだかんだ言って人間らしいトコ、あるんですね。」
「バカか君は?何の勝算も無く俺がそんなんするワケねーだろ?」
「は?て事は本心から少年を救いたいんじゃないのですか?」
「当たり前だろうが。グフフ…君みたいな偽善チャリティーマニアが集まれば、会場で屋台とかグッズ置いてるだけで丸儲け。会社儲かる。専務喜ぶ。俺評価上がる。グフフ、グフフフフ…」

人外畜生の極み。

最底辺のハゲでしか無かった様子。

「理由が虫酸が走る程汚いですが、だからと言って出来る事と言えば、今は課長に頼るしか無い私が不甲斐ない…」
「まあいいじゃん。双方得したら誰も悲しまないしね。WINWINだよ君。」
「ところで少年のリスクって何ですか?まさか違法な事とかさせませんよね⁉︎」
「んー?バカ言っちゃいけねえよ。ちょっと覚悟を見たかったのと、チャリティー打つのに個人名出した方が感心上がるだろ?スピーチの一つ二つ読ませて集まった観衆に直接訴えた方が効率良いし、若干個人情報流れちゃうってリスクだ。後はあそこの孤児院の敷地、タダで借りれる様にしろって位しか頼んでねーよ。」
「むむむ…何か…課長が良い人なんだか、使え無いハゲの置き物なのか分からなくなって来ました…」
「ハゲハゲ言うな!君、今日の借りは取り敢えずクリスマスケーキな。俺先に会社帰るから君はウチのクリスマスケーキ買いに走って。今直ぐに。」
少年に若干不安なハゲで眼鏡の鹿にしか見えないトナカイサンタがやって来たのは、ある意味(居ない説)から出たサンタさんのプレゼントだったのかも知れません。
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登場人物紹介

相沢ふぶき。30歳。

ネット中毒で他人とのコミュニケーションに難あり。

藤屋京衛門。通称ジョン(蔑称)。

葛城企画企画マーケティング部課長。

人間のクズ臭立ち込める専務の犬。

小林。ジョン課長に嫌がらせするのが生き甲斐。

曽我部チーフ。葛城企画マーケティング部の唯一の良識人。

山路嘉人。孤児院の少年。両親は他界、難病の妹が居る。

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