ファンシーショップふぶき・8
文字数 2,308文字
ジョン課長はフィルターギリギリまでタバコの煙を吸い込むと、ため息とも取れる様に大きく白い煙を吐き出しました。
重苦しい雰囲気を、何事も無い様飄々とジョン課長は続ける。
「『私情は捨てる』って言ったよね?君、スパイ紛いに任務を遂行するとか言ってたじゃん?間者が何言ってんの?そこで『親の死体売って金作ろうぜ!』とか言ってトドメ刺せる位図太くないと、来年のクリスマスはドラム缶の焚き火で炙った軍手しゃぶってるIN西成かも知れないんだぜ?だいたい君のは情にもろいとかじゃなくただの偽善だからな。偽善でやるなら他当たれよ。んで失業して目も当てられない位荒んだ心になって、貪欲で冷酷になればいい。だが俺まで巻き込まないでくれないか?君に付き合ってこの歳でリストラなんかされたら女房子供に何て言えばいいのさ?首括る以外道がないわ。」
私も感情的になっていて、涙混じりに声を荒げてしまいました。
「弱肉強食の世界で、弱者が強者に淘汰されるのは自然の摂理だろうが?人権団体の思想なんて現実の世界じゃ通用しねーんだよ。なら君や君の偽善に賛同する人間が、財産や内蔵も余すことなく売り払ってこのガキに施してやればいい。俺はごめんだ。何の見返りもない見ず知らずのガキによ、苦労の末自分で築いてきた幸せを分け与えてやるなんて聖者の真似事出来るかね?ほとんどの人間は出来ねーぜ?」
「泣いて泣いてNight。おう、少年もだけどよ。君らの涙にどれ程の価値があるんだよ?2秒泣く度に銀行残高が800円増えるってんなら泣け。延々と泣け。もう鳴け。でも何にもならんだろ?『悲劇を背負った人間の涙』も『あくびして出た涙』も、等しく排泄物で、等しく無価値。そんな余分な水分使う暇あるならせめて琵琶湖にでも流して来い。」
そう言うとジョン課長はまたタバコを咥え、少年の方を向いて火をつける。
「いいか、少年。俺ら個人で何とかなる援助じゃない事位分かるよな?治療費・維持費、膨大な金が動く。そうなれば会社巻き込む位せんにゃならん。ただ会社は組織だ。利益も無いものを遊びや慈善事業感覚で簡単に大金叩く義理もつもりも無い。」
〜☆〜
孤児院を出て、私とジョン課長はその足で会社に向かいます。辺りはクリスマス一色。
ジョン課長がまさかあんな事言いだすとは思ってもいなかったので、私は未だにビックリしたままです。
人外畜生の極み。
最底辺のハゲでしか無かった様子。
「んー?バカ言っちゃいけねえよ。ちょっと覚悟を見たかったのと、チャリティー打つのに個人名出した方が感心上がるだろ?スピーチの一つ二つ読ませて集まった観衆に直接訴えた方が効率良いし、若干個人情報流れちゃうってリスクだ。後はあそこの孤児院の敷地、タダで借りれる様にしろって位しか頼んでねーよ。」
少年に若干不安なハゲで眼鏡の鹿にしか見えないトナカイサンタがやって来たのは、ある意味 から出たサンタさんのプレゼントだったのかも知れません。