第5話 忍刀・弐の型 孔雀
文字数 2,380文字
ランは避けながら考えていた しのぶはエロい
刀を振り上げたときに きれいに処理された腋が見える
鍛えた体もいい なにより引き締まった尻がいい
さぞかし(ぴーーー)の(ぴーーー)も良さそうだ
「貴様~ッ! まじめな顔をしていやらしいことを考えているな~ッ!」
しのぶの刀は当たらない。(ぶおんっ)(ひょい)「ちくしょう~ッ!」
「まぁまぁ、落ち着きたまえ。しのぶ君」
「不審者が目の前にいて落ち着けるか!」
「だいたい、どうしてそう俺を殺そうとするんだね。俺はもうアメイシャ嬢には手を出さないんだ。本当に彼女を守りたいなら、もっと他にすべきことがあるんじゃあないのか」
「お前はお嬢さまの姿を見た。それだけで殺す理由には充分だ!」
本家の人間にとって 第四夫人の末女たるアメイシャは
金儲けの道具に過ぎない 売り物だ
他のどんな男の目にも触れたことがない
純粋無垢な乙女———そうでなければ、彼女の価値は暴落する
「しのぶ、君がすべきことはひとつだよ」
ランはじっとしのぶを見る。
しのぶはその瞳のまじめさに、足を止めた。
「君がすべきことは、今履いているパンツを渡すことだよ」
(ずこーっ)「まじめに聞いて損したわ! 死ねーッ!」
(死ねーッ!)
遠くから聞こえてくるしのぶの声を聞きながら、夕暮は悠々と廊下を歩いていた。
まったく、ラン様の性欲はとどまるところを知りませんのね。あぁでもそこが好き。あの獣のような、というかまさに獣でしかないところが好き。好き好き。好きすぎてわけわかんない。好きすぎて死んじゃう。あーん……。
「夕暮さま。今晩のお食事の準備がそろそろ整います」
突然現れる使用人にも、夕暮は顔色を崩さない。「いつもより三分も遅いわ。早くして頂戴」
あーん。ラン様ってどんな料理が好きなのかしら。カレーかしら、肉じゃがかしら。それとも私だったりして、きゃーん。今晩の料理はあ・た・し。あーん。(きりっ)「でも運が良かったわ。いまアメイシャ様はお休み中なの」
「ところで、お嬢さまの部屋が騒がしいようですが」と使用人。
「あーん……じゃねえや。(ごほん)」
「はい?」
「わかるでしょう、この屋敷ではあまり多くを知りすぎないほうがいいの。あなたはあなたの仕事をなさい。何を聞いても気にしないことね」
(しのぶちゃ~ん! ちゅーして、ちゅーして~!)
(んぎゃ~ッ! 寄るんじゃねえ~ッ!)
「何を聞いても気にしないことね」と夕暮。
「わかりました(辞めようかなこの仕事)」
使用人が歩き去っていく。夕暮は(ふっ)と息をついた。
しのぶの野郎~っ、まさかラン様とキスしてやしないだろうな~っ。(いらいら)
駄目っ、駄目よいけないわ夕暮(ぶんぶんっ)。嫉妬などしては駄目。ラン様は一人の女が独占できるほど小さな方ではないの。いずれは全ての女が……いや、きれいな女が、ラン様の物になるのよ。私はその一人。今あの方に協力しているだけで満足しなければならないの。
夕暮は廊下を歩きながら、考える。
いや、でもまぁ、ラン様を永久に地下牢に閉じ込めれば、私のモンだけどね。そっか、偉大な方すぎて一人の女に独占できないなら、独占できるようになるまで切り刻めばいいじゃない。半死半生の彼を、私が一生涯お世話し続けるのだわ。あらぁ~ん。これ最高。どうやってバラバラにしよっかな~。死なれたら困るし、ほどほどが肝心よね。それに五体満足にしておいたほうが(ぴーーー)するときに(ぴーーー)だし、やっぱ壊すとしたら精神とか、内臓系かな。
「しかし、その前にしのぶに殺されてしまうかもしれませんね」
夕暮は心配そうに眉を曲げる。
「ここに来て最初の三日で作った、例の対策グッズが役に立っているといいのですが」
「しのぶちゃんはさ、どうしてこの仕事してるの?」
(はぁはぁ)しのぶの息は荒い。質問には答えず、ひたすらにランに切りかかる。刀はどうしてもランに当たらず、常に虚空を切る。ランがふわりと跳んで、しのぶは空中にいる無防備なランを狙う。彼は器用に体をひねったり、切っ先を指や歯で捕まえる。
これまで屋敷に現れたどんな不届き者も
しのぶの刀を避け切ることはできなかった
彼女の息が荒れることなどありえなかった
だがあろうことか 目の前の変態野郎は 彼女の攻撃を見切る
「貴様には、何が見えている」
しのぶは気づいていた
さっき一度だけ 変態の頬を殴ることができたのは
殴らせてもらったのだということに
そしてそれはたぶん どんな形であれ あいつが女に触りたいからだ
「俺に見えているのは、君だけだよ」
しのぶはどきりとした
(どうして?)こんな軽薄な男の軽薄なことばになぜ動揺してしまう
(この男はなぜそこまで女に執着できるんだ)
(こいつほどの力があれば 別の道だっていくらでもあるはずなのに)
「私と戦え」しのぶは刀の構えを変える。床と平行に、頭の上に刀身を掲げる。
忍刀・弐の型 孔雀
しのぶの姿がふっと消える。(…………)ランはじっと周りの様子をうかがった。
「女好きには鉄則がある。たとえどんな状況でも、女とは戦わない」そして両手を広げた。
「ならば、死ね」部屋全体から、しのぶの声が響く。
(すとん)きれいな音がした。
ランの右腕が床に転がる。しのぶは姿勢を低くして、ランの足元にいた。息をつく間もなく、切り上げる。胴体が、左右に分かれる。血が噴き出し、しのぶの体を染めて行く。
(ぺろり)しのぶは血を舐める。
「…………ん。ちょっと待て、これ」
しのぶはランの死体を見下ろす。いや、死体ではない。綿が詰まった袋だ。エアーの入った緩衝材も入っていて、そこにケチャップも詰められている。そして、床には一人分の穴。
「嘘だろ、あいつ。逃げやがった……」
(がくり)しのぶは膝から崩れ落ちる。しかし、突然、くすくすと笑い始めた。……
刀を振り上げたときに きれいに処理された腋が見える
鍛えた体もいい なにより引き締まった尻がいい
さぞかし(ぴーーー)の(ぴーーー)も良さそうだ
「貴様~ッ! まじめな顔をしていやらしいことを考えているな~ッ!」
しのぶの刀は当たらない。(ぶおんっ)(ひょい)「ちくしょう~ッ!」
「まぁまぁ、落ち着きたまえ。しのぶ君」
「不審者が目の前にいて落ち着けるか!」
「だいたい、どうしてそう俺を殺そうとするんだね。俺はもうアメイシャ嬢には手を出さないんだ。本当に彼女を守りたいなら、もっと他にすべきことがあるんじゃあないのか」
「お前はお嬢さまの姿を見た。それだけで殺す理由には充分だ!」
本家の人間にとって 第四夫人の末女たるアメイシャは
金儲けの道具に過ぎない 売り物だ
他のどんな男の目にも触れたことがない
純粋無垢な乙女———そうでなければ、彼女の価値は暴落する
「しのぶ、君がすべきことはひとつだよ」
ランはじっとしのぶを見る。
しのぶはその瞳のまじめさに、足を止めた。
「君がすべきことは、今履いているパンツを渡すことだよ」
(ずこーっ)「まじめに聞いて損したわ! 死ねーッ!」
(死ねーッ!)
遠くから聞こえてくるしのぶの声を聞きながら、夕暮は悠々と廊下を歩いていた。
まったく、ラン様の性欲はとどまるところを知りませんのね。あぁでもそこが好き。あの獣のような、というかまさに獣でしかないところが好き。好き好き。好きすぎてわけわかんない。好きすぎて死んじゃう。あーん……。
「夕暮さま。今晩のお食事の準備がそろそろ整います」
突然現れる使用人にも、夕暮は顔色を崩さない。「いつもより三分も遅いわ。早くして頂戴」
あーん。ラン様ってどんな料理が好きなのかしら。カレーかしら、肉じゃがかしら。それとも私だったりして、きゃーん。今晩の料理はあ・た・し。あーん。(きりっ)「でも運が良かったわ。いまアメイシャ様はお休み中なの」
「ところで、お嬢さまの部屋が騒がしいようですが」と使用人。
「あーん……じゃねえや。(ごほん)」
「はい?」
「わかるでしょう、この屋敷ではあまり多くを知りすぎないほうがいいの。あなたはあなたの仕事をなさい。何を聞いても気にしないことね」
(しのぶちゃ~ん! ちゅーして、ちゅーして~!)
(んぎゃ~ッ! 寄るんじゃねえ~ッ!)
「何を聞いても気にしないことね」と夕暮。
「わかりました(辞めようかなこの仕事)」
使用人が歩き去っていく。夕暮は(ふっ)と息をついた。
しのぶの野郎~っ、まさかラン様とキスしてやしないだろうな~っ。(いらいら)
駄目っ、駄目よいけないわ夕暮(ぶんぶんっ)。嫉妬などしては駄目。ラン様は一人の女が独占できるほど小さな方ではないの。いずれは全ての女が……いや、きれいな女が、ラン様の物になるのよ。私はその一人。今あの方に協力しているだけで満足しなければならないの。
夕暮は廊下を歩きながら、考える。
いや、でもまぁ、ラン様を永久に地下牢に閉じ込めれば、私のモンだけどね。そっか、偉大な方すぎて一人の女に独占できないなら、独占できるようになるまで切り刻めばいいじゃない。半死半生の彼を、私が一生涯お世話し続けるのだわ。あらぁ~ん。これ最高。どうやってバラバラにしよっかな~。死なれたら困るし、ほどほどが肝心よね。それに五体満足にしておいたほうが(ぴーーー)するときに(ぴーーー)だし、やっぱ壊すとしたら精神とか、内臓系かな。
「しかし、その前にしのぶに殺されてしまうかもしれませんね」
夕暮は心配そうに眉を曲げる。
「ここに来て最初の三日で作った、例の対策グッズが役に立っているといいのですが」
「しのぶちゃんはさ、どうしてこの仕事してるの?」
(はぁはぁ)しのぶの息は荒い。質問には答えず、ひたすらにランに切りかかる。刀はどうしてもランに当たらず、常に虚空を切る。ランがふわりと跳んで、しのぶは空中にいる無防備なランを狙う。彼は器用に体をひねったり、切っ先を指や歯で捕まえる。
これまで屋敷に現れたどんな不届き者も
しのぶの刀を避け切ることはできなかった
彼女の息が荒れることなどありえなかった
だがあろうことか 目の前の変態野郎は 彼女の攻撃を見切る
「貴様には、何が見えている」
しのぶは気づいていた
さっき一度だけ 変態の頬を殴ることができたのは
殴らせてもらったのだということに
そしてそれはたぶん どんな形であれ あいつが女に触りたいからだ
「俺に見えているのは、君だけだよ」
しのぶはどきりとした
(どうして?)こんな軽薄な男の軽薄なことばになぜ動揺してしまう
(この男はなぜそこまで女に執着できるんだ)
(こいつほどの力があれば 別の道だっていくらでもあるはずなのに)
「私と戦え」しのぶは刀の構えを変える。床と平行に、頭の上に刀身を掲げる。
忍刀・弐の型 孔雀
しのぶの姿がふっと消える。(…………)ランはじっと周りの様子をうかがった。
「女好きには鉄則がある。たとえどんな状況でも、女とは戦わない」そして両手を広げた。
「ならば、死ね」部屋全体から、しのぶの声が響く。
(すとん)きれいな音がした。
ランの右腕が床に転がる。しのぶは姿勢を低くして、ランの足元にいた。息をつく間もなく、切り上げる。胴体が、左右に分かれる。血が噴き出し、しのぶの体を染めて行く。
(ぺろり)しのぶは血を舐める。
「…………ん。ちょっと待て、これ」
しのぶはランの死体を見下ろす。いや、死体ではない。綿が詰まった袋だ。エアーの入った緩衝材も入っていて、そこにケチャップも詰められている。そして、床には一人分の穴。
「嘘だろ、あいつ。逃げやがった……」
(がくり)しのぶは膝から崩れ落ちる。しかし、突然、くすくすと笑い始めた。……