第7話 R指定の壁

文字数 1,660文字

(ずがしゃぁっ)天井が抜けて、上からしのぶが降ってきた。
 ランは驚いて、反射的に飛びのく。彼のいたところを、刀がまっすぐに貫く。「殺してやる」しのぶは愉快そうに笑っていた。(くくくく)
「しのぶちゃん、一体どうしたんだ。様子が変だぞ!」とラン。
「まずいですね」と夕暮。「完全に目がイっちゃっています。推察するに、自らの剣技で仕留められない相手が現れて強く動揺しているのでしょう」
「なんとかしてくれよ。お前、同僚だろ」
「まぁ、言ってしまえば所詮同僚です」
「いや、お前さぁ!」と言って、ランは(はっ)とする。「待てよ。あの状態のしのぶちゃんなら、自分が裸でもまったく気にしないのでは……。よし、服を燃やす方法を考えよう!」
(きゃる~ん)「男の方って命を狙われてもたくましいんですのね」
「でも恥じらいもなしに裸にして楽しいでしょうか」夕暮が悩む。
「無自覚はエロいぞ!」(ずばぁっ)(ひょいっ)「ちょっと待った。こんな話をしてる場合じゃないな。あんな状態じゃあ、自分の部屋にも帰りそうにないし……一体、しのぶちゃんのパンツはどこにしまってあるんだ」

 スケベ大魔神 ラン
 この状況でも しのぶのパンツをあきらめない

 ランは食堂に来るまでも ずっとしのぶに追われ続けていた
 だが どれだけ屋敷中を逃げ回っても
 しのぶの部屋が見当たらない
 パンツがしまってあるタンスが見当たらない

「不思議なことをおっしゃいますわね」アメイシャは言った。
「なにがだ、お嬢ちゃん」
「しのぶは下着なんか履きませんわよ」
「えっ」

 えっ……? 履いてない……?
(しのぶは下着なんか履きませんわよ)
 その言葉に ランは宇宙を見た
 しのぶちゃん 忍び装束 パンツ (ぴーーー)
 ランは自然に そういう階層構造を前提としていた
 だが違う
(しのぶは下着なんか履きませんわよ)
 しのぶちゃん 忍び装束 (ぴーーー)
 そうか
 これが 〈真理〉 か……(ぴかーん)

「お嬢さま、いったいなんてことをおっしゃるんですか!」
 夕暮が慌てた。ランは(ぴーーー)とつぶやき続けている。(ずもももも)彼の体から黒い煙のようなものが噴き出し、しのぶを見つめるその瞳は(ぎらり)と光る。
「なぁんて、冗談よ。しのぶだって下着を履くわ」(あせあせ)
「もう聞こえていませんよ。ああなったラン様は、しのぶの(ぴーーー)を見るまで決して止まりません。ああ、私の(ぴーーー)を見てくださればいいのに!」

 実際 しのぶの部屋は屋敷にあった
 しかしそれは ランが走り回った天井裏からは通じていない
 しのぶの部屋は 地下にあるのだ
 この屋敷は洞窟のうえに建てられている
 そしてパンツは
 やはりタンスのなかにきっちり収められている

「いけませんわ。お嬢さま、私をしのぶの部屋まで案内してください」と夕暮。
「駄目よ、しのぶの部屋は私だけの秘密だもの!」
「そんなことを言っている場合ではありません。このままでは一人の殺し屋と、一人の変態がぶつかって、大変なことになってしまいます。そこで起きる化学反応の影響ははかりしれませんわ。もしかすると……」
「もしかすると……?」(どきどき)
「この屋敷が十八禁になってしまうかも……」
「十八禁……つまり、私はこの屋敷に……」
「そう、入れません」(ごろごろごろ)(ぴしゃーん)

 令嬢アメイシャ 十二歳
 突然訪れたR指定の壁に強く動揺する
 ようやく今年ジェットコースターにも乗れるようになったのに
 屋敷には入れなくなるなんて 耐えられるはずもない

「行くわよ、いますぐに。ついてきなさい!」
 夕暮は返事をする。「はい!」(にやにや)
 あ~ん。しのぶの部屋の位置特定しますわラン様。これで私を認めてくださいますわね。タンスの中にあるパンツも全部差し上げます。なぁに、しのぶには不要ですわよ。せいぜいお漏らしに気を付けることですわね。ウフフフフフ。

 この騒動のなか 使用人たちは見て見ぬふりを続けていた
(もう辞めよう)(でも給料いいしなあ)(とりあえずなんか弾いとくか)(ぼんぼんぼんぼん)
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