第9話 ありがとう(2)

文字数 578文字

 最初に、いちばん、まず感謝したことがある。
 彼女とは、初対面でお泊りしたのだが(カナダから彼女が帰国して)、あの頃ぼくは40代だった。
 加齢とともに、尾籠な話で申し訳ないが、

がよく出るようになっていた。この問題はほんとうに悩ましいもので… そのちょっと前に15歳下の女の子と、そういう仲になって旅行したとき、我慢に我慢を重ねて辛かった。うら若い、女子の前で、そんなことできないと思った。してしまえば、笑い話になるのかもしれなかったが、「してはイケナイ」と思い込んでいた。
 だからぼくが誰かと一緒に暮らすなら、放屁を許してくれる人、というのが第一条件だった。そのような女の人は、希少価値だろう、とも思っていた。

 彼女(今の家人)とは、初対面の時から大丈夫だった。

ぐらいで嫌われまい、してもヘーキの平左、全然大丈夫、と思っていた。
 これは思い込みでなく、ほんとにそうだった。
 彼女は、まったく大丈夫だった。
 ありがたかった。
 こんなことを気にするのはおかしいかと思うけれど、ぼくには切実な問題だったのだ。
 いまや、あまり大きな声で言えないが… ぼくがプッとすると、彼女もプッとしてくれて、何やら「会話」ができるようにさえなった。
 このタイミングは、奇蹟的なことだと思う。
 滅多にこの「会話」は成立せず、たいていぼくの「独り言」に終わるのだが。すんません。
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