第7話 ありがとう

文字数 512文字

 味噌汁をつくる。
 それから自室にこもる。
 すると、彼女が部屋に来て、「いただきます」と言う。

 彼女がパートから帰ってくる。
 ぼくは野菜炒めとか、鍋とか、夕食をつくっている。
 彼女のパソコンの前に、できた料理を置く。
 ありがとう、と言われる。
 時には「いつもいつもありがごうございます」などと言われる。
 なんだか、くすぐったい。

 いちいち、そんなこと言わなくてもいいよ、などと思う。
 でも、これ、だいじなことだな、と、しみじみ思う。
 ありがとう。
 これが、ぜんぶなんじゃないか。
 彼女に言いたいことの、僕のぜんぶなんじゃないか。

 もちろん、彼女だけに限定の話じゃない。
 今まで、彼女の時間をともにしてきた、いろんな人── ダンナさんとか(彼女はまだ事務手続き上、結婚している。ぼくとはいわば「不倫」関係?だ)、その前の彼氏さんとか、親とか友達とか── 彼らがいなければ、今の彼女もいないわけで。
 ぜんぶ、ひっくるめて、どうしたところで「ありがとう」なのだ。ほんとに。

 ぼくにしたって、前の妻とか、一人娘、友達や、いろんな人がいてくれて、今に至っている。
 やっぱり、ありがとう、としか言えない。
 ほんとに、ありがとう、なのだ。
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