第15話 ムーンライト
文字数 1,144文字
「ありがとうございました~!」
今、レジから聞こえる女性店員の可愛らしい顔と声に癒されている。
最近はオレの顔を覚えたのか、「お疲れ様です!」なんて声をかけてくれるようになった。
今度はオレから声をかけてみようか…?
そんなことを考えながら、手に持っていた青いパッケージのビスケットを買い物かごに入れようとしたその時。
いきなり横から伸びてきた大きな手が、その箱を奪い取った。
なんだ?!
オレは驚いてそちらに視線を向ける。
身長170センチのオレより随分上にあるその顔は、透けるような白い肌、オレを見つめる大きな二重瞼の垂れ目は優しく細められている。サラサラの前髪はふわりと片方の目にかかっている。
オレは言葉を失う…。
「懐かしいね、これ」
少し高めの穏やかな声。
「ソ…ラ…か?」
喉がつかえてうまく発声できない。
男は大きなボストンバッグを肩にかけ、ニコッと笑って首を横に傾げる。
「お久しぶり、アキトくん」
ガチャンっと大きな音がして、足元に落ちたカゴの中で缶ビールと弁当のパッケージが跳ねた。
そこからは何がどうなったか記憶がない。
コンビニの自動ドアを出た時には、オレは男に手を引かれていた。
すぐそばの駐輪場まで来て、彼は立ち止まりこちらを振り向く。
「アキト君、注目浴びてたよ!驚き過ぎ」
あはは、と爽やかに笑うその男は本当にソラなのか?
「アキト君、変わってないね。オレすぐわかったよ。相変わらず体格いいね。スーツの上からでもよくわかる」
こんなにべらべらしゃべるのはソラじゃない!誰なんだ、こいつ!
そんなオレの心を見透かしたかのように、男は言う。
「信じてよ、おれ、ソラだよ。アキト君の家に行ったら、おじさんが今ここで一人暮らししてるって教えてくれたんだ。留守だったんで、飲み物でも買って玄関で待とうと思ってた。そしたら、アキト君がいたんで、ラッキー!」
目じりを下げ、垂れ目は更に下がって、大きな口が三日月になっている。
あれ…?視界が潤む…。
「ば、ばかやろう!驚かすんじゃねえよ!」
やっと声が出た。
紺色のハーフコートの両ポケットに手を入れたまま、やけに余裕な表情が憎たらしい。
「ははは、ごめん~」
コートの裾から伸びるブルージーンズ。身長は多分180を超えている。足がやたら長い。
何より、この辺ではちょっと見ないほどの美男子だ。
「お、お前…、ほんとにソラか…?」
訝し気に聞くオレを見て、くすくすと笑うソラは、やはりあの時の無邪気な面影を残し、ほっぺが丸く膨れている。
「アキト君、今日、これ一緒に食べよう」
手にしたコンビニ袋の中から青い箱を取り出して、微笑む。
「話したいことが山ほどあるんだ」
冬の澄んだ夜空を仰ぐと、満月がやけに近くに見える。
今夜はビールじゃなくて…
「牛乳あったかな?」
月を眺めながら、オレは呟いた。
完
今、レジから聞こえる女性店員の可愛らしい顔と声に癒されている。
最近はオレの顔を覚えたのか、「お疲れ様です!」なんて声をかけてくれるようになった。
今度はオレから声をかけてみようか…?
そんなことを考えながら、手に持っていた青いパッケージのビスケットを買い物かごに入れようとしたその時。
いきなり横から伸びてきた大きな手が、その箱を奪い取った。
なんだ?!
オレは驚いてそちらに視線を向ける。
身長170センチのオレより随分上にあるその顔は、透けるような白い肌、オレを見つめる大きな二重瞼の垂れ目は優しく細められている。サラサラの前髪はふわりと片方の目にかかっている。
オレは言葉を失う…。
「懐かしいね、これ」
少し高めの穏やかな声。
「ソ…ラ…か?」
喉がつかえてうまく発声できない。
男は大きなボストンバッグを肩にかけ、ニコッと笑って首を横に傾げる。
「お久しぶり、アキトくん」
ガチャンっと大きな音がして、足元に落ちたカゴの中で缶ビールと弁当のパッケージが跳ねた。
そこからは何がどうなったか記憶がない。
コンビニの自動ドアを出た時には、オレは男に手を引かれていた。
すぐそばの駐輪場まで来て、彼は立ち止まりこちらを振り向く。
「アキト君、注目浴びてたよ!驚き過ぎ」
あはは、と爽やかに笑うその男は本当にソラなのか?
「アキト君、変わってないね。オレすぐわかったよ。相変わらず体格いいね。スーツの上からでもよくわかる」
こんなにべらべらしゃべるのはソラじゃない!誰なんだ、こいつ!
そんなオレの心を見透かしたかのように、男は言う。
「信じてよ、おれ、ソラだよ。アキト君の家に行ったら、おじさんが今ここで一人暮らししてるって教えてくれたんだ。留守だったんで、飲み物でも買って玄関で待とうと思ってた。そしたら、アキト君がいたんで、ラッキー!」
目じりを下げ、垂れ目は更に下がって、大きな口が三日月になっている。
あれ…?視界が潤む…。
「ば、ばかやろう!驚かすんじゃねえよ!」
やっと声が出た。
紺色のハーフコートの両ポケットに手を入れたまま、やけに余裕な表情が憎たらしい。
「ははは、ごめん~」
コートの裾から伸びるブルージーンズ。身長は多分180を超えている。足がやたら長い。
何より、この辺ではちょっと見ないほどの美男子だ。
「お、お前…、ほんとにソラか…?」
訝し気に聞くオレを見て、くすくすと笑うソラは、やはりあの時の無邪気な面影を残し、ほっぺが丸く膨れている。
「アキト君、今日、これ一緒に食べよう」
手にしたコンビニ袋の中から青い箱を取り出して、微笑む。
「話したいことが山ほどあるんだ」
冬の澄んだ夜空を仰ぐと、満月がやけに近くに見える。
今夜はビールじゃなくて…
「牛乳あったかな?」
月を眺めながら、オレは呟いた。
完