第5話 疑念
文字数 1,214文字
ある日、公園で三人で遊んでいると、突然雨が降り出した。
屋根のある場所でしばらく待つものの、雨は止む気配が無く、あきらめてオレの家に帰ることにした。
五分ほど走っただけだが、三人ともびしょ濡れになり、リンは家に帰った。
ソラと帰宅すると、服や髪から水を滴らせているオレたちを見て、祖母がお風呂を沸かしてくれたので、二人で入ることにした。
脱衣所で濡れて体に纏わりつく服を脱ぐ。ふと隣で裸のソラを見ると、背中に大きな痣があるのに気付いた。
紫色の直径10センチはある大きな痣。
昔のケガの痕かな、と思ったが、ソラがこちらを向いたとき、オレはさすがにギョッとした。
胸のあたりに背中のそれの半分ほどの痣が三つ、そして、腕に赤黒い、傷にも見える痣のようなものが二つ。そして、右太ももにも大きな内出血の痕があった。
全部、服を着ていると見えない箇所だったので、それまで全く気付かなかった。
「お前、…それ…」
オレは思わず声が出ていた。
ソラはオレの視線にハッとして、両腕で体を抱き隠そうとしたが、すぐに諦めた。
ガリガリに痩せて胸のあばらが浮いている。
その体のあちこちに散らばる痣と傷痕が痛々しくて、オレは思わず目を逸らした。
浴室では二人とも無言で体を洗い、一緒に湯船に浸かった。
雨に打たれて冷え切った体が芯から温まるはずが、オレの心の中は寒々しいままだった。
湯船で向かい合って座るソラは、気持ち良さそうに目を瞑っている。
白い頬っぺたが上気してピンク色になっていた。
オレはまじまじとその傷や痣をもう一度観察する。
腕の傷は随分古そうで、痛そうには見えないが、太ももの内出血はまだ最近のものらしく、熱をもっていそうな赤色が混じっていた。
オレは気になるものの、なぜか触れてはいけない気がして、結局その日は何も聞けなかった。
翌日の月曜日。
野球の練習があるのでソラ達とは遊べない日だったが、なぜか落ち着かなくて、昼休みにソラの教室に行ってみた。
ソラは席に着いていて、前の椅子を反対に向け座っているリンと話していた。
話していたと言っても、いつも通りリンが一方的にだが。
オレは廊下からソラの顔を見て、思わず二人の所に駆け寄った。
ソラの額には絆創膏が貼られていて、そこからはみ出るように赤い傷が見えた。
「お前!」
思わず大きな声が出て、リンとソラは驚いていたが、構わず、
「お前、それどうしたんだよ!」
とソラのおでこを指差した。
「私もちょうど今、聞いてたとこなんだけど…」
リンが、そう言って、
「転んだの?」
と、ソラにもう一度聞くが、ソラはただ俯いている。
「まさか、また長谷川達?!」
リンがハッとしたように、ソラの顔を覗き込むと、ソラは首を横に振った。
子供のオレでもニュースや、うわさなどで耳にしてよく知っている。
聞きたいけど聞きたくない。そうであってほしくない。
心の中でしばしの葛藤があった。
「放課後、オレんち来い」
「え?アキト、野球でしょ?」
リンが訝し気な表情で聞く。
「休む」
屋根のある場所でしばらく待つものの、雨は止む気配が無く、あきらめてオレの家に帰ることにした。
五分ほど走っただけだが、三人ともびしょ濡れになり、リンは家に帰った。
ソラと帰宅すると、服や髪から水を滴らせているオレたちを見て、祖母がお風呂を沸かしてくれたので、二人で入ることにした。
脱衣所で濡れて体に纏わりつく服を脱ぐ。ふと隣で裸のソラを見ると、背中に大きな痣があるのに気付いた。
紫色の直径10センチはある大きな痣。
昔のケガの痕かな、と思ったが、ソラがこちらを向いたとき、オレはさすがにギョッとした。
胸のあたりに背中のそれの半分ほどの痣が三つ、そして、腕に赤黒い、傷にも見える痣のようなものが二つ。そして、右太ももにも大きな内出血の痕があった。
全部、服を着ていると見えない箇所だったので、それまで全く気付かなかった。
「お前、…それ…」
オレは思わず声が出ていた。
ソラはオレの視線にハッとして、両腕で体を抱き隠そうとしたが、すぐに諦めた。
ガリガリに痩せて胸のあばらが浮いている。
その体のあちこちに散らばる痣と傷痕が痛々しくて、オレは思わず目を逸らした。
浴室では二人とも無言で体を洗い、一緒に湯船に浸かった。
雨に打たれて冷え切った体が芯から温まるはずが、オレの心の中は寒々しいままだった。
湯船で向かい合って座るソラは、気持ち良さそうに目を瞑っている。
白い頬っぺたが上気してピンク色になっていた。
オレはまじまじとその傷や痣をもう一度観察する。
腕の傷は随分古そうで、痛そうには見えないが、太ももの内出血はまだ最近のものらしく、熱をもっていそうな赤色が混じっていた。
オレは気になるものの、なぜか触れてはいけない気がして、結局その日は何も聞けなかった。
翌日の月曜日。
野球の練習があるのでソラ達とは遊べない日だったが、なぜか落ち着かなくて、昼休みにソラの教室に行ってみた。
ソラは席に着いていて、前の椅子を反対に向け座っているリンと話していた。
話していたと言っても、いつも通りリンが一方的にだが。
オレは廊下からソラの顔を見て、思わず二人の所に駆け寄った。
ソラの額には絆創膏が貼られていて、そこからはみ出るように赤い傷が見えた。
「お前!」
思わず大きな声が出て、リンとソラは驚いていたが、構わず、
「お前、それどうしたんだよ!」
とソラのおでこを指差した。
「私もちょうど今、聞いてたとこなんだけど…」
リンが、そう言って、
「転んだの?」
と、ソラにもう一度聞くが、ソラはただ俯いている。
「まさか、また長谷川達?!」
リンがハッとしたように、ソラの顔を覗き込むと、ソラは首を横に振った。
子供のオレでもニュースや、うわさなどで耳にしてよく知っている。
聞きたいけど聞きたくない。そうであってほしくない。
心の中でしばしの葛藤があった。
「放課後、オレんち来い」
「え?アキト、野球でしょ?」
リンが訝し気な表情で聞く。
「休む」