第6話 ソラの涙

文字数 961文字

放課後、ソラがランドセルを背負ったままやってきた。
いつもは一旦帰宅してから遊ぶのだが、今日は直接来るように念押ししていたのだ。
リンはピアノ教室があるので、二人きりだ。

ホットミルクとお菓子を入れた皿をお盆に載せ、ソラを連れて二階のオレの部屋に上がった。
少し部屋が暑かったので窓を開けると、ふわりと涼しい風が入りレースカーテンを膨らませる。
ソラはランドセルを隅に置き、オレはフロアマットの上に直接盆を置いて、向かい合って座った。
ホットミルクを飲みながらしばしの沈黙の後、オレは切り出した。

「お前、誰にやられたんだ?」

オレはできるだけ冷静を装ったが、内心は怒りと恐怖の感情が渦巻き、顔が強張っていたかもしれない。

ソラはカップを持ちながら俯いた。
ミルクが付いた小さな唇はキュッと引き結ばれている。さらさらの髪が前に垂れる。

「親か?」

「…」

「おい!」

何も言わないソラについ苛ついてしまう。
しばらく沈黙が続いたが、オレは体を乗り出して、俯いているソラの両肩を強く掴んだ。

「黙ってんじゃねぇ!このまま毎日傷を増やしていくのか?お前、死んじまうかもしれないんだぞ!」

つい最近、連日ニュースで騒がれていた痛ましい事件を思い出し、ソラが同じ運命に見舞われることを想像すると、恐ろしくて息が止まりそうになる。

ソラはオレに肩を揺らされて顔を上げ、オレの目をじっと見つめる。
その揺らめく瞳に悲しそうなオレの顔が映っていた。

こいつを守りたい。こいつを傷つけられたくない。
ただその感情だけがオレを突き動かした。

「オレがお前を助けるから。オレを信じろ」

オレはソラと、その瞳の中で揺れているオレ自身に言い聞かせるように言った。

次の瞬間、オレの胸がギュッと締め付けられた。ソラの大きな目からぼろぼろと涙が零れ始めたのだ。
ほぼ確信していた一方で、思い違いであってほしいとどこかで願っていたのに。ソラの涙がそれを否定した。

開けた窓から聞こえてくる、カラスのカーカーという鳴き声が部屋の静寂を破る。

「かあちゃんか?」

ソラは首を大きく横に振った。

「じゃあ…、とうちゃんか?」

ソラは一瞬固まったように動かなくなった。
強張った顔で、ひざの上に置いた自分の手元を見つめている。

ぽたぽたとその手の甲に涙が落ちる。

「ソラ」

オレが顔を覗きこむと、ソラは目を閉じ、コクリと頷いた。
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