第12話 それはまるで恋のような

文字数 729文字

さっきの父との会話をソラはどんな気持ちで聞いていたのだろう。

オレには母親がいないけど、どこかで生きている。
でも、父親が死んでしまうなんて、その時のオレには想像もつかないほど心細かっただろうと思う。
静寂の暗闇の中で、鼻を啜る音が聞こえる。

オレは体を起こし、ソラの方を覗いた。
ソラは天井を見たまま、グスグスと鼻を啜っている。
暗闇に慣れたオレの目に、ソラの目尻に光る涙が映った。

「ソラ、こっちこい」

自分でもびっくりするくらい穏やかな声が出ていた。

オレの身長が急激に伸びてきたので、先月、大人用のベッドに買い換えてもらったところだった。

ソラはすぐに身体を起こし、立ち上がってベッドに乗ってきた。ソラは体が小さいので二人並んでも十分な広さだった。
オレはソラに布団をかけてやり、ソラの方を向いて横たわる。
ソラもこちらを向いてオレの目をじっと見つめた。

思わずソラの頭に手が伸びていた。サラサラとした髪を優しく撫でると、ソラは気持ちよさそうに目を閉じる。
長いまつ毛が濡れていた。
そんなソラを見ていると、周りで起きることすべてがどうでもよくなる。
ずっとソラさえいれば何もいらない、なんて、まるで恋に落ちたかのように、甘く切ない感覚がオレの心を満たしていった。


金曜日の夕方、野球チームのコーチから電話があり、明日の練習試合に出場するように言われた。
オレはその週はずっと練習を休んでいて、すっかり野球への情熱が冷めていたが、一応キャプテンだったので、父にも言われ、仕方なく行くことにした。
その選択が、翌日になって大きな後悔を呼ぶことになるとは、その時のオレにはまだ知る由もなかった。

「午前中だけだから、待ってろよ」

その夜、ソラにそう言って、翌朝、まだ寝ていたソラを残し、出かけた。
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