第2話 いじめっ子といじめられっ子

文字数 1,596文字

ソラと出会ったのは、小学六年の春。アイツは一個下の五年生だった。

オレの両親はオレが三歳の時に離婚している。母親が男を作って出て行ったらしい。オレが小学校に入学すると同時に、同居を始めた祖母がオレに話したのだ。
聞いてもいないのに、なんでそんなことを幼い子供に話したのか、いまだに謎だ。

学校では、母子家庭の子供はそんなに珍しいことではなかったが、父子家庭はオレの知っている限り、オレだけだった。
父は今のオレと同じ、普通のサラリーマン。祖母と同居する前までは二人暮らしで、オレを保育所に預けて通勤し、家事もこなしていた。

父も祖母もオレを不憫に思ってか、とてもオレに甘かった。欲しいものは大抵買ってくれたし、毎年夏休みとオレの誕生日にはディズニーランドやUSJやらに連れて行ってくれた。

オレは三年生から少年野球チームに入った。体が大きかったこともあり、4年生で上級生を押しのけてレギュラーになった。それがきっかけで、クラスでも人気者になる。

だが、そんなオレは調子に乗って、オレに群がるクラスメイト達を子分扱いするようになった。彼らがオレに従うのが快感になると同時に、気に入らない奴には暴力で懲らしめた。

六年になると、さすがに奴らも分別がついてきたのか、オレから距離を置くようになり、オレの周りは従順な数人が残るだけとなっていた。


ゴールデンウィークが明けて間もないある日の昼休み、給食を食べ終え、教室でオレの子分、もとい、友人のタカと話していると、リンが慌てた様子で教室に駆け込んできた。

リンは1個下の五年生で、幼馴染みの女子。
家が近所で、低学年くらいまではよく一緒に遊んだが、オレの素行が悪くなった頃からは会っても口もきかなくなった。
そんなリンがいきなりオレに会いに来たので驚いた。

「アキト、お願いがあるの!」

「何だよ。面倒ごとはごめんだぜ」

本当はちょっと嬉しかった。リンには嫌われていると思っていたから。
でも、表向きはカッコつけたい。そんなお年頃だ。

ちょっと来て、とリンに腕を掴まれ、強引に廊下に連れ出された。

リンは女子の中では背が高く、痩せても太ってもいない、ちょうどいいスタイルだ。
長い髪をポニーテールに結い上げて、いかにもお嬢様、といった上品な顔立ち。
だがその見た目に反して、負けん気が強く、オレともよく取っ組み合いのケンカをした。

「いてーだろ!離せよ」

少しムッとして、リンの手を振り払って睨む。

しかしリンはそんなことはお構いなしだ。

「助けてほしい子がいるの。今すぐ!」

オレの腕をまた掴み引っ張る。

「ちょ、待てって!」

オレは抵抗した。

「うちのクラスの転校生がいじめられてるの!」

「知らねーし。なんでオレが助けなきゃなんねーんだよ。お前が助けろよ」

めんどくさい。そう言って教室に戻ろうとしたら、ふわっと体が傾いた。

「おい!」

廊下をずかずかと進むリンに腕を引かれ、リンが手を離した時には、五年生の教室の前に着いていた。

リンが教室の中を見る。その視線の先には、教室の後ろの隅を囲むように、3人の男子が背を向けて立っているのが見える。そのすき間から、地べたに座り込んでいる制服のブレザー姿が見えた。
初め、女かと思った。うなだれるように俯き、おかっぱの髪が顔半分ほどを覆っている。

三人の男子が何やら喚きながら、そいつを寄ってたかって蹴っていた。

酷い、とは思わなかった。なぜなら、自分もそっち側の人間だから。

他の生徒らは遠巻きに見ていたり、それには無関心な様子で、おしゃべりに夢中だ。

「おい、こら!立てよ!」

そう喚くリーダーらしき奴の方に視線を移し、ハッとした。
あいつはこのあたりじゃ有名な、札付きの悪の中学生、長谷川の弟だ。
こいつに手を出すのは賢明ではない。

そう判断したオレはすぐに踵を返し、廊下を元来た方へ走っていった。

「アキト!」

背後から呼ぶリンの声は、廊下で騒ぐ生徒たちのざわめきにかき消された。
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