宇宙の意思

文字数 1,124文字

午後5時。

コスモエナジー救世会本部の境内に設置されたステージの中央に、4人の巫女たちが大きなカウチのようなソファーを運んできた。
東心悟がそれに腰を下ろし、蓮華座のように脚を組む。そして目を半眼にした。
御影が以前言っていた通り、これから東心悟は瞑想に入るようである。

信者たちは皆、静かに祈りを捧げている。

真奈美と山科ら刑事たちはステージ上に目を光らせていた。

・・・私の考えが正しければ、きっとそれはここで起きる。。

真奈美は東心悟の心を読もうとしたが、やはり読めない。
しかし、これは真奈美の想定内であった。

瞑想に入り、5分ほど経過したとき、それは起こった!

瞑想中であった東心悟が突然目をかっと見開いたのだ。
そして両手で胸を押さえた。
ゆっくりと前のめりにステージに崩れ落ちる。

・・・(まなぶ)。。

その一瞬、今まで一度も読めなかった、東心悟の心の声を真奈美は聞いた。
彼は息子の名を呼んでいた。

巫女たちがあわてて駆け寄り、東心悟の身体を支える。
場内は騒然となった。

「山科さん、早く!私をステージまで連れて行ってください」

その声を聞いた山科は信者の群れに向かって大声を上げた。

「警察だ!通してくれ。道を開けろ!どけ!開けるんだ」

山科の鬼の形相と激しい剣幕に、信者の群れがモーセの海のように割れた。
真奈美は急いでステージに駆け上がる。
そして巫女たちに叫んだ。

「どいてください。私が東心さんを手当てします!」

東心悟の顔は苦悶に歪んでいた。
駆け寄った真奈美は、東心悟の胸を透視した。
肋骨を透かして心臓が見える。
ふたつの冠動脈の位置を探す。探し当てたそれは奇妙な形にねじ曲がっていた。

真奈美は精神を集中して、まだ覚えたてのサイコキネシスを発動した。

・・・冠動脈を、元の形に。。

「・・ううっ。。」

東心悟が呻いたが、その表情は先ほどより和らいでいる。

・・・なんとか上手く行ったようだ。命は助かったはず。

「お父さん!お父さん!大丈夫?」

ステージの袖から、ひとりの少年が目に涙をいっぱいに溜めて走って来た。
東心悟の息子の学である。

学は父親の前にしゃがみ込み、一生懸命に父の胸をさすった。
その心には悲しみと不安が満ちているのを、真奈美は読み取っていた。

「学君、心配しなくていいわ。お父さんはもう大丈夫よ」

口ではそう言いながら、真奈美は学にテレパシーで別の言葉を語りかけた。

・・・あなたがサイキックだったのね。

東心学の心が突然、空っぽになった。
真奈美は学の心の声を聞いた。

・・・僕は宇宙の意思。宇宙の声。愚かな人類を導く超人類だ。。
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登場人物紹介

宮下真奈美(みやしたまなみ)

超科学捜査研究所=S.S.R.I所員。他人の思考が読める「サトリ」の能力を持つサイキック。

ドラマ「科捜研の女」の沢口靖子に憧れて科学捜査研究所の求人に応募するも、この能力ゆえに不本意にもS.S.R.Iなる秘密部署に配属されてしまった。

男性の下心まで見えてしまうため恋愛が出来ないのが密かな悩み。

田村貴仁(たむらたかひと)

超科学捜査研究所=S.S.R.I所長。現在は閑職に甘んじているが、かつて某宗教団体による毒ガステロ事件の際、サイキックチームを率いて事件を解決に導いた実績を持つ。S.S.R.Iは警察の通常捜査や科捜研の科学捜査技術では手に負えない特殊な事件を秘密裡に捜査・解決する表向きは存在しない組織である。

山科一郎(やましないちろう)

捜査一課の中年警部補。昔気質の地道な捜査で多くの事件を解決してきたベテラン刑事。怪力乱神を語らずが信条だが「コスモエナジー救世会事件」が通常捜査では手に負えない不可能犯罪であると判断すると、S.S.R.Iに捜査協力を依頼するあたり、けっして石頭ではない。

御影純一(みかげじゅんいち)

かつて驚異の超能力少年としてマスコミの寵児となった稀代のサイキック。その能力は底が知れない。表の職業は私立探偵であるがそちらの実入りが少ないためパチンコとマージャンで稼いでいる。

異常に若く見えるが田村と同年齢。

牧野聡(まきのさとし)

「コスモエナジー救世会事件」最初の被害者。マキエス商事株式会社の代表者。


家山実(いえやまみのる)

「コスモエナジー救世会事件」二人目の被害者。ビエブロホールディングスカンパニーの代表者。

福成欣也(ふくなりきんや)

「コスモエナジー救世会事件」において、死を予告されながらも生き延びた初めての人物。IT産業の寵児として若くして日本屈指の資産家に登り詰めた、ハッピーヘブン株式会社の社長。

安田平八(やすだへいはち)

内閣総理大臣。コスモエナジー救世会より死の予言を受けている。彼の命を守ることがS.S.R.Iの目下の任務である。

東心悟(とうしんさとる)

コスモエナジー救世会・教主。元証券会社の社員だが、40歳を過ぎて突然「宇宙の声」が聞こえるようになり、投資で巨額の資産を築き上げる。その資産を元にコスモエナジー救世会を立ち上げた。真奈美の能力をもってしても思考を読むことができない底知れぬ人物であるが、息子の学に対しては非常に子煩悩な一面を見せる。

東心学(とうしんまなぶ)

東心悟と別れた妻である植山千里の間に生まれた8歳の長男。親権は悟が取得した。ゲームとアニメに夢中なごく普通の小学生だが、いつも一人で遊んでいるあたり孤独な影がうかがえる。

植山千里(うえやまちさと)

東心悟の元妻で学の母親。40歳を過ぎて「怪物」と化した悟を恐れ離婚したが、親権を奪われた学が悟とともにいるのは危険であるため、悟が逮捕されることを望んでいると真奈美たちに訴える。

穂積恵子(ほづみけいこ)

御影純一の探偵秘書。5年前のある事件で御影純一に命を救われたことがきっかけで秘書になった。純一に密かに思いを寄せている。


鮫島亮(さめじまりょう)

内閣調査室の調査員。上司に命じられS.S.R.Iと御影純一にある依頼をするが、本人はサイキックの存在に懐疑的である。

真壁俊太郎(まかべしゅんたろう)

T大学の研究者で医学と物理学と心理学の博士号を持つ。1970年代には「超心理学研究室」に所属し、御影や田村たち超能力少年を研究していた。現在はかなりの高齢者だが「脳量子力学研究所」という名称で研究を継続している。日本における超能力研究の第一人者。

冨井春義(とみいはるよし)

作者。幕間に度々登場する。この小説を執筆したのは身の程知らずにもエラリー・クイーンを真似て「読者への挑戦」付きのミステリイを書きたい!と思い立ったからなのだが、案の定緻密で論理的なトリックなどまったく思いつかず、メイントリックが超能力という身も蓋もなくアンフェアな物語を書いてしまった。それを作者得意のハッタリと卑怯と詭弁でいかに本格推理風に仕上げるかが本作品のすべてであると言って過言ではない。

雨宮信一郎(あまみやしんいちろう)

コスモエナジー救世会事務長。元プロボクサーであり、鋭いパンチを持つ。

谷本伸二(たにもとしんじ)

刑事。山科警部補の部下として登場する刑事は他にも居るが、入院中の御影純一の警護役を言いつけられたおかげでザコキャラ刑事の中では唯一名前とアイコンが貰えた。

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